2014 Fiscal Year Research-status Report
組織を透明化する試薬「Scale」の魚病研究への応用
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25660154
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
延東 真 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 教授 (80128355)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
二見 邦彦 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 助教 (00513459)
片桐 孝之 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 助教 (50361811)
舞田 正志 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 教授 (60238839)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 透明化 / Scale / 病理学 / 細菌 / 感染症 |
Outline of Annual Research Achievements |
魚類の感染症において,健康に見えながら体内に病原体が潜伏し,ある時排菌する,いわゆるキャリヤーは非常に大きな問題となっている。魚類の感染症は,病魚の病巣部を中心に採材し組織学的,分子生物学的解析を行うといったプロセスで診断される。しかし,このような二次元的,局所的な解析法では,保菌魚における病原体の潜伏機構や体内動態を三次元的,全体的に解明することが困難である。そこで,三次元的に魚体の内部構造を可視化し,その後注目すべき組織に焦点を当て詳細な解析を行うといった全体から細部に至るまで網羅できる方法が必要とされる。 本研究では,組織を完全に透明化することができる試薬「Scale」を魚病研究に適用し,蛍光標識した魚類病原細菌の魚体内での分布の可視化,透明化した組織の病理組織学的解析への応用,および透明化した組織による病原体感染機構の生化学・分子生物学的解析へのアプローチを目指す。 平成26年度は,代表的な小型魚類であるメダカを用い,Scale試薬の組成や処理方法を検討し,組織の透明化における最適条件を探索した。また,平成25年度と同様,Scale試薬だけでなく,近年新たに開発されたSeeDBやClearTなどについても検討した。コントロールとして,未処理区に加え,トリプシンやNaOHで処理する従来法を用いた。それぞれの.組織を用いた場合の組織の形態維持およびRNAの保存性について調べたところ,従来法を除くすべての透明化試薬で明瞭な鰓の構造と腸管上皮の構造が観察できた。次に,透明化処理後のメダカの鰓および肝臓からRNAを抽出し,電気泳動によりRNAの保存性を比較したところ,従来法とScaleA2ではRNAの分解が見られたが,SeeDB,ClearTでは高品質のRNAが検出できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在のところ,全体としてはおおむね順調に進展しているといえる。平成25年度はゼブラフィッシュを用いていたが,筋肉組織は透明化されていたものの,鱗の黒色素胞と腹部が透明化できなかったため,顕微鏡での観察が困難であった。そこで平成26年度は,黒色素胞の少ないメダカを用いたことと,腹部の筋肉部を除去したことで内臓への試薬の浸透が早まり,この問題を解決することができた。また,昨年と同様,当初の計画にあったScale試薬だけでなく,SeeDBやClearTなどの試薬についても比較検討をした。各透明化試薬を用いた場合の組織の形態維持を調べたところ,すべての透明化試薬において明瞭な鰓の構造と腸管上皮の構造が観察できた。次に,RNAの保存性についても調べたところ,常法であるAGPC法ではいずれのサンプルからもRNAは抽出できなかったが,プロトコールをプロテナーゼKとフェノール/クロロホルムをベースにした方法に改変したところ,SeeDB,ClearTでからは高品質のRNAが抽出できた。以上のことから,魚類組織の透明化が可能で,組織の形態維持およびRNAの保存性に優れていたSeeDBとClearTは,三次元的な病理解析(全体)からリアルタイムPCR等による分子生物学的な解析(細部)まで広く適用できると考えられた。 なお,予備実験の段階ではあるが,種々の蛍光色素で標識した大腸菌をメダカの腹腔内に接種し,蛍光顕微鏡で観察したところ,サイズの小さな菌でも明確に蛍光を検出できることがわかった。現時点では,組織の透明度はまだ十分とはいえず,組織の自家蛍光も強いため,蛍光標識したキャリヤーを観察するには多くの課題が残されている。これについては,Scaleを改良して屈折率などを調整したCUBICを導入することや,蛍光色素の蛍光波長を変えることで問題解決を図ることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点では,組織の透明度はまだそれほど高くはないため,平成27年度は,Scaleの改良法であるCUBIC法についても試みる。なお,作業の簡略化と実験魚の使用数削減のために,予備実験の段階では,ホモジナイズにより可溶化した組織を透明化に用いることも検討する。 また,蛍光標識した病原体を魚類に感染させ,透明化後に蛍光標識した病原体を検出することで病原体の魚体内動態や局在を明らかにする。具体的には,アクリジンオレンジ等で蛍光標識した魚類病原細菌をメダカに感染させた後,魚体を透明化処理し,蛍光実体顕微鏡により病原体の局在を観察する。また,蛍光波長の異なる色素で標識した腸内細菌(プロバイオティクス)の投与により,魚類病原細菌の動態や局在がどのように変化するかなどについても明らかにする。さらに,蛍光のみならず,特殊染色なども試み,透明化処理した組織が病理組織学的解析へどの程度適用可能かを明らかにする。 なお,病気の診断には,遺伝子レベルでの相同性に基づく病原体の特定が求められる。また,病態生理学や免疫学的研究においては,宿主側でどのような遺伝子が発現しているかを明らかにする必要がある。そこで,リアルタイムPCRおよび免疫染色の条件検討を行い,透明化した組織でのこれらの遺伝子やタンパク質の検出方法を確立する。また,蛍光標識した病原細菌との二重染色が可能かどうかも調べる。さらに,レーザーマイクロダイセクション法により,組織切片からの微量の核酸調整への可能性についても検討する。これにより,貪食細胞やその他の免疫担当細胞のはたらきをシングルセルレベルで明らかにし,それらの知見を統合して表現型と関連付けることで,キャリヤーの発現やその対策の確立への道筋を拓く。
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