2014 Fiscal Year Research-status Report
浸透圧調節の特殊性から探る紅藻ウシケノリの低塩類濃度耐性機構の研究
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25660160
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
三上 浩司 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 准教授 (40222319)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 環境ストレス耐性 / 低塩類濃度ストレス / 細胞収縮 / 葉緑体 / 遺伝子発現 / トランスクリプトーム解析 / ウシケノリ |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度、ウシケノリ細胞において淡水中で遊離アミノ酸含有量の減少と葉緑体の形態変化が生じることが判明した。これらの現象と高い低塩類濃度耐性には関連があると考えられる。これらを背景として、今年度では膜脂質脂肪酸組成の分析とナトリウム・ポンプの機能解析について研究を進めることができた。 まず、予想外の結果として、低塩類環境下において膜脂質脂肪酸組成は全く変化しないことを見出した。これは、細胞および葉緑体の形態変化に伴う膜機能の維持のため膜脂質脂肪酸組成に変化があるのではとの予測とは全く異なる結果であった。しかし、膜機能維持に関わる植物ステロール類が塩類環境に応じてその量を変化させる可能性を見出すことができ、これは今後の重要な解析項目となった。 ナトリウム・ポンプの機能解析については、昨年度得られたスサビノリ遺伝子導入シロイヌナズナのスンストレス耐性を調べたところ、様々な条件で野生株と比較したが、違いは見られなかった。すなわち、ナトリウム・ポンプが低塩類濃度ストレス応答に関わるかどうかは、この方法では解析不能であることが確かめられた。そこで、直接ウシケノリにおけるナトリウム・ポンプ活性を調べることにした。予備実験では、野生株において安定的な活性測定ができるようになったので、今後は実際にストレス応答時における測定を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度、膜脂質脂肪酸組成の分析とナトリウム・ポンプの機能解析を進めることができた。しかし、他に予定していた葉緑体形態変化の詳細な解析やトランスクリプトームのデータ解析については進めることができなかった。 主な理由は、膜脂質脂肪酸組成の分析に多くの時間が必要だったからである。当初、分析が簡単な総脂質中における脂肪酸変化をみることで何らかの知見が得られると考えていたが、予想に反して脂肪酸組成の変化が見られなかった。そのため、各脂質クラスにおいては変化しているのではと考え、MGDG, DGDG, SQDG, PGなどの葉緑体膜を構成する脂質やPCのように細胞膜を構成する脂質を精製し、そこでの脂肪酸組成の変化や各脂質クラスにおける光学異性体の量的変動などに着目した分析を行ったが、全く変化はなかった。これらの実験にかなりの時間が費やされた。また、各脂質クラス自体の量的変動も分析したが、やはり変化はなかった。ただ、この分析の過程で、脂肪酸と同様に各機能の維持に関わる植物ステロールの量が変動することを見出すことができたので、上記のように時間をかけた分析は無駄ではなかったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の契機となったウシケノリにおける低塩類環境下での細胞収縮は常識では考えられない生理応答であることから、その浸透圧調節機構は極めて特殊であることが予想される。そのため、その仕組みの解明はこれまで知られていない環境応答機構の発見につながることが期待できる。その実現をめざし、今後は、これまで得られた成果を踏まえて、ナトリウム・ポンプ活性の測定、植物ステロールの分析、およびトランスクリプトームのデータ解析を進めたい。 ナトリウム・ポンプ活性の測定は、低塩類ストレス処理したウシケノリと、コントロールとしてのスサビノリについて行い、細胞内のイオン強度を調節する上でナトリウム・ポンプがどのような役割を果たしているのかを明らかにする。この場合、同時に細胞内のナトリウム・イオンおよびカリウム・イオンの動態も測定する。 トランスクリプトームのデータ解析では、低塩類ストレスで発現が上昇する遺伝子と低下する遺伝子を見出し、続いて各々の発現解析を定量的PCR法にて行う。また、各遺伝子のプロモーター領域をクローン化し、共通の制御配列があるかどうかを検討する。なお、細胞の形態変化に伴って葉緑体の形態も変化することは、環境応答における核と葉緑体のゲノム間の協調作用が推察できる。そのため、葉緑体移行タンパク質の遺伝子がどのように発現調節を受けているのかについても、トランスクリプトーム解析の結果からデータを抽出し、特殊な浸透圧ストレス応答機構の解明の突破口を開いていきたい。 植物ステロールの分析は、分析方法がかなり整備されてきたので、可能な限り分析を進め、その量的変動による細胞膜の物理状態の調節と細胞・葉緑体の形態変化の関連を明らかにしていきたい。
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Causes of Carryover |
計画的に当該年度終了と次年度交付までの期間における若干の研究費の確保を考えて使用したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度分交付までの期間に、特に消耗品の購入にあてる。残った場合は、次年度に消耗品費として使用する。
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Research Products
(5 results)