2013 Fiscal Year Research-status Report
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25660162
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
板橋 豊 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 教授 (60142709)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小玉 修嗣 東海大学, 理学部, 教授 (70360807)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | リン脂質 / 光学異性体 / ラセミ体 / キラルHPLC / 質量分析 |
Research Abstract |
「細胞膜を構成するリン脂質はキラルな化合物であり,ホスファチジルコリン(PtdCho)もエタノールアミン(PtdEtn)も,R配置であることに注意せよ」と有機化学や生化学の教科書(たとえば,マクマリー有機化学第7版)に書かれているが,この常識は疑わしく思われる.申請者は,ある種の生物や生育環境下ではS配置のリン脂質も存在すると考えている.このことを明らかにするためには,Rと S を完全に識別する分析法の開発が不可欠である.本研究では,これまで困難とされ,長年の研究課題となっている「リン脂質の光学異性体の分離分析法の開発」に挑戦する.方法が確立すれば,リン脂質の新たな研究分野が拓かれるとともに,S型リン脂質,特に高度不飽和脂肪酸(EPA,DHA)に富む水産リン脂質の新たな機能開発とそれを利用する産業の創出に繋がることが期待できる. 平成25年度は,リン脂質の光学異性体を分離する方法としてキラル固定相を使用する高速液体クロマトグラフィー(キラルHPLC)を検討した.多糖類系のキラルカラムを広くスクリーニングした結果,不斉識別剤としてアミロース誘導体を含むカラムが本研究の目的に極めて有効であることを見出した.移動相を最適化した結果,アシル基の異なる数種の飽和 PtdCho と PtdEtn のそれぞれのラセミ体を短時間に完全に分離することに成功した.分離の程度はアシル基に依存せず,同一の移動相を使用した場合は,いずれのラセミ体についても一定の分離係数(1.07-1.10)が得られた.蒸発光散乱検出器(ELSD),荷電化粒子検出器(CAD),質量分析計(MS)の検出特性を明らかにした.キラルHPLC-MSでは,両エナンチオマーについて同一の分子量関連イオンとアシル基を示すフラグメントイオンが得られ,ピーク同定が容易であることも明らかになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の研究目的は,リン脂質の光学異性体(エナンチオマー)を明瞭に区別(分離)する方法を開発することであった.その方法として,HPLC,キャピラリー電気泳動(CE),キャピラリー電気クロマトグラフィー(CEC)の使用を考えたが,CEとCECは操作が難しいことから,HPLCの使用をまず検討した.幸いキラルHPLCで期待以上のよい分離が得られため,現在はこの方法を用いて研究を進めている.
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度で確立した方法を用いて生物由来 PtdChoと PtdEtn を分析し,各リン脂質の立体構造を検証する.すなわち,S型リン脂質の存在を明らかにすることを試みる.試料には以下の生物を用いる.(1)海洋細菌数を含む微生物(E. coli, Vibrio sp., Stapylococcus aureus, Pseudomonas fluorescence, Alteromonas macleodii, Delaya aquamarina,古細菌など),(2)藻類(海藻:紅藻,褐藻,緑藻;微細藻:珪藻類,赤潮藻),(3)水産動物(ウニなどの棘皮動物,貝などの軟体動物,硬骨魚類),(4)陸上の哺乳動物. 以上の検討により,S型リン脂質の存在を明らかにし,生物における機能とヒトへの有効利用について新たな研究分野を立ち上げたい.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の目標とした分析法の開発がキラルHPLC法の適用により,予想よりも順調に進んだため,消耗品(キラルカラム,有機溶媒等)の購入が予定を下回った. 平成26年度(最終年度)は,より優れた分析法を確立し,多数の生物試料への適用を試みることから,平成25年度以上に消耗品(キラルカラム,有機溶剤,CE用キャピラリーカラム等)が必要となることが予想される.助成金はこれら消耗品の他,研究成果の発表(旅費,論文投稿)を活発に行うために使用する.
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Research Products
(1 results)