2013 Fiscal Year Research-status Report
イネを経由するメタンガス放出機構の解明:同位体分別効果を活用した新アプローチ
Project/Area Number |
25660200
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | National Institute for Agro-Environmental Sciences |
Principal Investigator |
常田 岳志 独立行政法人農業環境技術研究所, 物質循環研究領域, 任期付研究員 (20585856)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | メタン / 水田 / 炭素安定同位体比 / ガス輸送 / 移流 / 拡散 |
Research Abstract |
水田は約30億人に主食のコメを提供する食料生産基地である一方、強力な温室効果ガスであるメタンの最大人為発生源の一つでもある。水田からのメタン発生には、微生物による「生成」「酸化(分解)」および、土壌中の「貯留」と大気への「輸送」の4つのプロセスが関与する。このうち「輸送」については、イネを通る経路の重要性が強調されてきたが、そのメカニズムに踏み込んだ研究はないまま「放出量の変動に輸送過程は関与しない」という単純な仮定が置かれてきた。本研究ではガスの輸送に伴う「同位体分別効果」を活用することで、イネを通るメタンの拡散・移流メカニズムを明らかにすることを目的とした研究を行っている。 平成25年度は本研究で必要となるメタン炭素安定同位体比分析装置の改良を精力的に行った。既存の分析ラインでは、大気中に微量存在するクリプトンがメタンの同位体比分析に大きな測定誤差をもたらすことが最近明らかにされた(Schmitt et al. 2013, Atmos. Meas. Tech.)。本研究では前処理ラインを改良することによってクリプトンの影響を取り除くことに成功した。また前処理ラインを自動化することによって高精度・ハイスループットの分析ラインを確立することができた。 確立した分析装置を用いて実際の農家水田から放出されたメタンの同位体比を分析した結果、同位体比には大きな日変動や生育ステージ依存性があることを見出したた。これは、メタンの輸送に分子拡散と移流の両者が関与し、その割合が気象要因やイネの組織形成などによってダイナミックに変化することを強く示唆していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に確立したメタンの炭素安定同位体比分析ラインは、世界最高水準の精度をもち、なおかつ完全な自動分析化に成功したため、極めてスループットが大きい。この点は当初の計画以上に研究開発が進んだ。また実際の水田から放出されたメタンの同位体分析も行い、同位体比の時間変動に関して新しい知見が得られた点も大きな成果と考えている。当初計画していた室内モデル実験による精密な測定に関しては、同位体ラインの改良にリソースが割かれた関係で、一部に遅れが見られるが、そのための準備は順調に進んでいる。 以上まとめると、研究計画全体として概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
同位体比の分析ラインが確立されたことから、今後の研究は概ね順調に進展すると考えている。ただし申請書にも記したように、同位体比は輸送過程(拡散・移流の相対的割合)だけではなく、その他の過程も影響を与える。これまでの予備的試験から、メタンの酸化による同位体比の変化が予想されたことから、今後はメタン酸化阻害剤を組み合わせた試験を行い、輸送過程による影響をよりよく抽出できる試験計画を策定する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品の競争入札により当初見込みよりも若干ながら支出額を抑えられたため。 次年度使用額は同位体分析に必要な液体窒素の値上がり分の一部にあてる予定である。
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