2013 Fiscal Year Research-status Report
妊娠維持に関わるフェロモン記憶細胞の同定~新たな記憶モデルの確立~
Project/Area Number |
25660252
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Azabu University |
Principal Investigator |
茂木 一孝 麻布大学, 獣医学部, 准教授 (50347308)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | フェロモン / 社会記憶 / ブルース効果 / 副嗅球 / オキシトシン |
Research Abstract |
本研究では妊娠維持に関わる副嗅球のフェロモン記憶神経細胞を同定し、新たな社会記憶形成メカニズムの解明を目指す。本年度はまず妊娠維持に関わる記憶細胞を探索した。具体的にはGFP-GluR1-c-fos-Tgマウスを用い、交尾時に嗅いだフェロモン刺激により活性化する副嗅球の細胞が交尾雄との再暴露時に再び活性化するかどうかを調べた。GFP-GluR1-c-fos-Tgマウスは、神経細胞の活性に伴い発現が誘導される最初期遺伝子c-fosのプロモーター下流にtet-on/offシステムを導入している。このマウスでは、Doxを飲水投与しておけばGFPを持続的に発現させる改変遺伝子が発現しない仕組みになっている。そこでGFP-GluR1-c-fos-Tg雌マウスの発情前期にDox投与を一時中断してBalb/c系統の雄マウスと交尾をさせ、交尾の2日後に今度はDoxを作用させたまま交尾雄と同系統のBalb/c系統の雄マウスまたは異系統のB6系統の雄マウスを導入し、その2時間後にGFP-GluR1-c-fos-Tg雌マウスの脳を環流固定して、副嗅球を取り出した。交尾時のフェロモン情報伝達に用いられた細胞にはGFPが持続的に発現することとなり、雄マウスの再暴露で活性化した細胞にはc-fosが発現するため、副嗅球切片においてGFP抗体とc-fos抗体で2重免疫染色された細胞こそ、交尾時と雄マウスとの再暴露時の両方に関与する記憶細胞の候補だといえる。結果として交尾雄マウスの再暴露により副嗅球尾側にある僧房細胞層および顆粒細胞層のいくつかの細胞が2重免疫染色され、これら細胞が妊娠維持に関わるフェロモン記憶細胞であることが示唆された。本結果は他個体を嗅覚によっていかに認知して記憶するかという新たな社会記憶モデルの提唱に大きく前進するものであり、繁殖という種の存続に関わる根本的機能の解明にも寄与するという意味でも大きな意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はフェロモン記憶細胞を同定し、そのフェロモン記憶細胞における微細構造変化とその変化へのオキシトシンの関与を明らかにすることが計画されているが、まず想定していたように副嗅球に記憶細胞があるかどうかを確認することが研究を遂行するための大きな鍵であった。本年度の研究成果でそのフェロモン記憶細胞の同定に向けて大きく前進したといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
まず本年度にフェロモン記憶細胞であることが示唆された副嗅球の細胞が実際に妊娠の維持に関わるかどうかの機能実証をDREADDs-Gi-c-fos-Tgマウスを用いて行う。DREADDs-Gic-fos-Tgマウスを用いれば、副嗅球にCNOをマイクロインジェクションすることで交尾雄との再暴露時に再び活性化する細胞、つまりフェロモン記憶細胞だと想定される細胞活性を人為的に抑制することができる。そこで妊娠メスマウスを、その想定される副嗅球のフェロモン記憶細胞を抑制した状態で交尾雄マウスと再暴露させ、妊娠メスマウスが流産するかどうかをみる。マウスにおける妊娠は、雌マウスが交尾した雄マウスのフェロモン情報を副嗅球で記憶することにより、卵巣における黄体機能が維持されて成立すると考えられている。本年度に示唆された副嗅球の細胞が妊娠維持に関わる記憶細胞だとすれば、その活性の抑制で交尾した雄マウスとの再開にもかかわらず流産するはずである。この機能実証後には、その記憶細胞において交尾による微細構造の変化があるかどうかを免疫電子顕微鏡法で解析する。また、申請者はこれまでの研究から交尾によって副嗅球内にオキシトシンが分泌され、そのオキシトシンが記憶形成に関わることを行動薬理学的に示してきた。そこで、オキシトシン受容体(OTR)を可視化可能なOTRプロモーターに蛍光タンパク質であるVenusを組み込んだ遺伝子改変マウス(OTR-Venus-TGマウス)とGFP-GluR1-c-fos-Tgマウスを交配させ、交尾雄マウスとの再暴露時に活性化する細胞、つまりフェロモン記憶細胞がVenusが発現しているかどうかを調べ、フェロモン記憶におけるオキシトシンの役割を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の予定よりもGFP-GluR1-c-fos-Tgマウスを用いたフェロモン記憶細胞の組織学的解析に集中して力を注ぎ、脳手術や維持管理などのための費用がかかるDREADDs-Gi-c-fos-Tgマウスでの機能実証実験を次年度に持ち越したためである。GFP-GluR1-c-fos-Tgマウスを用いた組織学的解析には既に保有していた消耗品で対応可能であった。 フェロモン記憶細胞の機能実証にむけて、DREADDs-Gi-c-fos-Tgマウスを用いた脳内投与実験や行動実験のための人件費や消耗品費、また副嗅球内でのオキシトシン受容体(OTR)の関与を調べるためのOTR-Venus-TGマウスの維持管理や組織学的解析のための費用に用いる。さらに、交尾による副嗅球内細胞の微細構造変化を調べるための免疫電子顕微鏡法による解析費にも用いる。
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Research Products
(3 results)