2013 Fiscal Year Research-status Report
カイコのフリーズドライ精子を用いた長期保存システムの構築
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25660270
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | National Institute of Agrobiological Sciences |
Principal Investigator |
内野 恵郎 独立行政法人農業生物資源研究所, 遺伝子組換えカイコ研究開発ユニット, 研究員 (90563627)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | カイコ / カブラハバチ / フリーズドライ / 精子 / 顕微授精 / 未受精卵 / 賦活化 |
Research Abstract |
近年遺伝子組換え技術の進歩によりカイコやカブラハバチ等の非モデル昆虫でも組換え体を容易に作出することが可能となってきた。しかし、作出した組換え体は維持するために定期的に飼育する必要があり多くの労力とコストがかかる。一部で液体窒素で保存した精子や卵巣から個体を再生させる技術が開発されているが、設備や維持費にコストが掛かり、万一の際に液体窒素の供給が止まると作出した組換え体を失う危険性がある。一方マウスなどの哺乳動物では真空凍結乾燥(フリーズドライ)した精子からの個体再生に成功しており、同技術を昆虫に応用できればその利便性は計り知れない。今回我々は昆虫の精子をフリーズドライし、顕微授精により個体を再生させるシステムの構築に挑戦する。 カブラハバチは昆虫で唯一顕微授精が成功していることから、精子をフリーズドライ処理し顕微授精により個体を再生する試験を行った。雄成虫から採取した精子を滅菌水に懸濁し、凍結乾燥した精子を顕微鏡観察した。その結果、見た目による違いは認められなかったが、精子束の乖離に違いがあり、フリーズドライした区では著しく精子束の乖離が悪かった。顕微授精を行った結果、処理区では受精は認められなかった。カイコでは顕微授精が未だ確立していない。その一因とし未受精卵の賦活化に問題があると考えた。そこでカイコの未受精卵の単為発生を賦活化と位置づけ、未受精卵の単為発生の条件検討を行った。白/C、カンボージュ/N106、PK1の3種の雌成虫から卵巣卵(未受精卵)を温湯処理(46℃18分)、次いで低温処理(15℃15分)し、発生開始の有無を観察した。その結果、白/C以外の2種で高い割合(約8割)で発生の開始を確認した。また未受精卵の賦活化の分子生物学的な検定法の開発では、卵のMAPKのリン酸化状態をウエスタンブロット解析により検出する方法を検討したが、今回検出には至らなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
カブラハバチのフリーズドライ精子による顕微授精では実施した凍結乾燥の条件で精子の状態が質的に劣化したことが原因と考えられた。また、カイコの顕微授精の開発では今回試験的に人工授精を行った。すなわち雄成虫の貯精器官(嚢)、交尾後の雌体内での精子の一次貯蔵器官(交尾嚢)、二次貯蔵器官(授精嚢)から精子を採種し、滅菌水で希釈した精子溶液を用いて雌成虫体内から採種した卵巣卵に試験的に顕微授精を行ったが、採取した器官、特に交尾嚢、受精能から採取した精液の粘性が想像以上に高く、ガラスキャピラリーで卵に適切な量の精子を注入することが難しかったことなど、顕微授精を行うための前処理に手間取ったことが原因として上げられる。また、未受精卵の賦活化の分子生物学的な検定法の開発では卵中に卵黄タンパク質が豊富にあるため、電気泳動による卵抽出タンパク質の分離が困難であった。現在、泳動条件の改善などを行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
カブラハバチのフリーズドライ精子による顕微授精では精子のフリーズドライの条件検討が重要であることが改めて示唆された。保有する凍結乾燥機では条件を細かく調整することが困難であるため、他機関で保有する機器や受託によるサービスを利用して条件検討を実施し、個体再生の試験を実施する。カイコの顕微授精法の開発では高い効率で賦活化する系統を入手できたことから、賦活化した未受精卵を用いて顕微授精を実施する。また、用いる系統は休眠卵であることから非休眠化を誘導するために昨年度抗休眠ホルモン抗体を作製した。すでに作製した抗体を親世代の蛹に注入することで次世代の卵で非休眠化が起こることを確認している。これらを併用し組換えカイコから採取した精子の処理条件を検討し顕微授精法の確立を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額が生じた理由としては、精子の凍結乾燥条件を詳細に検討するため、凍結乾燥の受託にかかる経費として次年度に繰り越した。 今年度は繰越金と合わせて、精子の凍結乾燥条件を詳細に検討するため凍結乾燥技術に優れた企業に受託を依頼する予定である。また必要な情報を入手するために哺乳動物で成功している研究機関を訪ねて情報交換を行うための旅費や研究発表のための旅費、実験補助のための謝金、その他物品購入費として使用する予定である。
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