2015 Fiscal Year Annual Research Report
恐怖記憶の抑制が睡眠中の記憶の強化処理に与える影響
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25670122
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Research Institution | Shiga University of Medical Science |
Principal Investigator |
栗山 健一 滋賀医科大学, 医学部, 准教授 (00415580)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 睡眠・覚醒 / 記憶・学習 / ストレス / 指示忘却 / 精神医学 / 夢 / PTSD |
Outline of Annual Research Achievements |
意図的に行われる記憶抑制は、力動精神医学で規定される意識下での防衛機制の一つである記憶抑圧(Repression)の心理学的モデルと考えられており、前頭前野のトップダウン制御による海馬活動の低下を背景プロセスとして想起を抑制する。恐怖体験中に記憶抑制を行うと、体験中の恐怖は減弱する半面、遅発性記憶想起時の恐怖反応が増加し、体験直後に睡眠を剥奪された場合、さらに想起時の情動反応が増強されることが示されている。本研究はこの恐怖体験記憶の睡眠中の処理プロセスと記憶抑圧との機能的関連を、機能的核磁気共鳴画像(fMRI)により検討した。 行動指標においては記憶抑圧および恐怖条件づけによる記憶強化促進作用が認められた。PTSDの病態に恐怖記憶の過剰強化・記憶減衰(消去)不全が示され、記憶抑圧操作により想起成績の低下を生じた。生理学的指標において遅延再認時に、特に睡眠後に恐怖条件づけによる記憶強化作用が確認され、恐怖条件づけの般化を示していると考えられた。 脳活動指標においては睡眠による効果が明確に示された。睡眠後、記憶再認に伴い両側の前頭前野の活動が亢進し、睡眠中の記憶強化処理の影響が示唆された。さらに恐怖条件づけ記憶の強化には両側下頭頂葉が関与し、記憶抑圧操作に関連して、右側前頭前皮質および両側前部帯状回(ACC)の活動亢進が認められた。右側前頭前皮質は不安や恐怖感情と強く関連し、この部位の活動亢進は、不安関連精神疾患の症状強度と強く関連することが示されている。さらにACCは情動処理回路の中核構造であり、この部位の活動亢進は恐怖制御不良もしくは恐怖制御負荷亢進を反映する可能性が示されている。記憶抑圧操作により、恐怖処理不全が生じこれらの脳活動変化が惹起されている可能性が示唆され、古典的な記憶抑圧との機能類似性・関連性の強さを示唆する。本成果はPTSD病態と記憶抑圧との関連性を示す重要な証拠となる。
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Research Products
(10 results)