2014 Fiscal Year Research-status Report
心筋細胞における筋原線維の同期的収縮を支えるT管の分子機構の解明
Project/Area Number |
25670171
|
Research Institution | National Cardiovascular Center Research Institute |
Principal Investigator |
阪本 英二 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (40291067)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 心筋細胞 / T管 / 心臓病 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、心筋形質膜が陥入した膜構造であるT管が筋原線維のZ線へ架橋され、心筋細胞内の電気的収縮を同期させる分子構造、さらにはその破綻が心臓病に及ぼす影響を明らかにすることである。 心臓が血液ポンプとして有効に機能するためには、全ての心筋細胞の電気的興奮が同期することに加え、個々の心筋細胞内部に無数に存在する筋原線維の収縮が同期することが必要がある。T管は、横紋筋細胞の表面に生じた電気的興奮を瞬時に内部へ伝え、全ての筋原線維の収縮を同時に誘発させると考えられている。近年、単離心筋細胞のT管を薬物処理で非特異的に破壊すると、電気刺激で誘発される細胞内部の電位上昇は膜直下に比べ内部では有意に遅延することが実証されつつある。しかし、心筋におけるT管とZ線の架橋分子機構に関する詳細な報告はない。 そこで申請者らは、こうしたT管とZ線の架橋に関与する分子機構を解明し、さらにその破綻が心臓病の発症と進展に関わるか病態生理学意義を見出すべく、遺伝性心筋症のモデル動物である心筋症ハムスターに着目した。心筋症ハムスターは突然変異動物であるが、興味深いことに、重症度の異なる複数の亜系統が存在する。申請者らは先に、いずれの系統にも共通する遺伝的原因として、ジストロフィン結合タンパク質の一つであるδ-サルコグリカン(δSG)が欠損していることを明らかにした。さらに、中でも特に重症なTO-2ハムスターでは心室筋のZ線とT管が崩壊することも見出した。こうした事実から、TO-2にはδSGの遺伝的欠損に加え、T管とZ線の架橋に関わる分子にも第2の遺伝子異常が存在するのではないかと考えられた。 本研究は、心筋のT管とZ線の架橋に関与するタンパク質群を明らかにし、さらにT管とZ線の架橋分子群の欠失と心臓病の進展・増悪の関係の解明も試みるものである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでに申請者は、以下のようなことを明らかにした。 まず、TO-2ハムスターの心筋ではZ線結合タンパク質であるデスミンが減弱することをイムノブロットによって見出した。そして、TO-2ハムスター由来のデスミンcDNAは、コーディング領域の571番目の塩基がGからAへ変化しており、これは191番目のアミノ酸をアラニンからスレオニンに変える点突然変異(Ala191Thr)であることが分かった。 次に、正常あるいは変異デスミンcDNAを中間径フィラメント分子が発現してないSW13細胞にトランスフェクションし、発現したデスミン分子の線維形成状態を免疫染色で検討したところ、変異デスミンでも線維は形成するが正常に比べ明らかに脆弱であった。これらの結果から、Ala191Thrはデスミンのダイマー形成に必須なコイル-1ドメインに軽度の構造変化をもたらし、その結果、ダイマー形成ひいてはデスミン線維全体の形成に障害が生ずるものと考えられた。 さらに、δ-サルコグリカン(δSG)の心筋細胞内の局在を免疫染色で検討し、δSGは正常ハムスターの心筋では従来報告されている筋形質膜に加えT管にも存在し、さらにZ線に接する部位でデスミンと共局在することを明らかにした。また、他のα、β、γサルコグリカンもδSGと同様に、筋形質膜に加えてT管にも存在し、Z線上のデスミンと共局在することも明らかにした。 このような結果に加え、デスミンはジストロフィン結合タンパク質群と結合するとの報告も考慮すると、正常心筋細胞においてはT管上存在するいずれかのサルコグリカンの細胞内ドメインは、何らかの分子を介してZ線上のデスミンと結合し、T管のZ線への架橋に関与する可能性が示唆される。目下、その詳細の解明に取り組んでいるが全ては終了しておらず、それゆえ、全体としてやや遅れていると言わざるを得ない。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果を踏まえ、今年度は以下のことを明らかにする。 1.T管上のサルコグリカン(SG)とZ線上のデスミンを架橋する分子構造の解明 SGとのデスミンの架橋に関与する有力な候補分子としては、ジストロフィン結合タンパク質群が考えられる。そこで、シントロフィンなどの様々なジストロフィン結合タンパク質のcDNAをpCITE発現ベクターに組み込み、in vitroで発現させ、標識タンパク質として合成する。あるいは、cDNAをpET発現ベクターに組み込み、大腸菌に発現させ、ビーズに固相化させる。そして、これらタンパク質の結合関係の詳細をpull-down実験で解析するこうして得られる結果を総合し、T管上のSGとZ線上のデスミンを架橋する分子群のモデルを構築する。 2.T管とZ線の架橋の安定性におけるSGの役割の解明 心筋は骨格筋と異なり命ある限り収縮するため、心筋細胞中の様々なタンパク質は機械的負荷に曝され続ける。中でも筋原線維の結束点であるZ線への機械的負荷は大きく、それは加齢と共に蓄積していく。一方、T管上のSGからZ線上のデスミンへの分子架橋はこうした機械的負荷からT管とZ線を保護する可能性が考えられる。そこで、デスミンには遺伝的異常がないがδSGが遺伝的に欠損する心筋症ハムスターを用い、Z線に局在するデスミンの安定性が加齢と共にどのように変化するかを検討する。
|
Causes of Carryover |
当初は、T管とZ線の架橋に関わる分子の心筋内における局在の解析を26年度中に終了する予定であった。しかし、ハムスターの交配が近交退化現象などの為に思い通りにいかず、実験に必要十分な数の個体を用意できなかった。そのため、計画した架橋分子の解析を完了するが出来ず、未使用額が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究遅延の原因となった心筋症ハムスターの交配は、再度軌道に乗せることができた。このため、当初計画した架橋分子の心筋内における局在の解析を予定通り行うことが可能である。そして、未使用額はその経費に充てる。
|
Research Products
(1 results)