2013 Fiscal Year Research-status Report
脳内侵潤T細胞の免疫学的解析に基づくフラビウイルス脳炎の病態形成機序の解明
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25670223
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | National Institute of Infectious Diseases |
Principal Investigator |
倉根 一郎 国立感染症研究所, その他部局等, その他 (90278656)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 隆二 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター), その他部局等, その他 (70373470)
高崎 智彦 国立感染症研究所, その他部局等, その他 (20221351)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ウイルス / 基礎医学 / 微生物 / 脳神経 / 免疫学 |
Research Abstract |
蚊媒介性ウイルスによる脳炎は全世界において最も重要な感染症の一つである。日本脳炎はわが国を含むアジアにおいて最も重要なウイルス脳炎といえる。これまでフラビウイルス脳炎マウスモデルにおいて脳内浸潤T細胞が厳格な特異性を有している事を報告してきた。しかし、これら脳内浸潤T細胞の役割に関しては明確な答えは得られていない。今回、日本脳炎ウイルス感染マウスをモデルとし、脳内侵潤T細胞における抗原特異性とクローナリティに関して、特にT細胞レセプター解析に基づき明らかにした。感染後体重が減少するマウスと体重が減少しないマウスが存在したが、感染後13日までに25%以上体重が減少したマウスは、21日目までにすべて死亡した。一方、13日目までに体重の減少が10%以下であったものはすべて生存した。これら2郡群から5頭ずつ選び、脳内の免疫学的解析を行った。まず、脳内ウイルス量においては両群に差がなかった。脳内におけるCD3、CD4、CD8、CD25 及びCD69の発現量においても差はなかった。VA8-1、VA10-1 あるいはVB2-1を発現しているT細胞は死亡群、生存群いずれにおいても増加していた。しかし、これらのT細胞レセプターのCDR3部位のアミノ酸配列を比較すると、両軍間には相違がみられた。IFN gamma、TNF alpha (Th1 型サイトカイン)とIL4 、IL5 (Th2型サイトカイン)の比は、生存群に比べ死亡群において高い値を示した。これらの結果から、脳内浸潤T細胞の質的な違いが、日本脳炎ウイルス感染後の生死を決定していることが示唆された。今後、選択されたTCR発現細胞の削除、およびこのTCRを発現するT細胞クローンの移入実験を通して、フラビウイルス感染からの回復あるいは免疫病理学的病態形成機序における脳内浸潤T細胞の生物学的意義を明らかにすることを目的としている。本研究は、フラビウイルス脳炎の新たな予防・治療戦略の科学的基盤の確立に資する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本脳炎ウイルスJaOArS982株を腹腔内接種しその後の体重変化を追跡した。感染後体重が減少するマウスと体重が減少しないマウスが存在したが、感染後13日までに25%以上体重が減少したマウスは、21日目までにすべて死亡した(死亡群)。一方、13日目までに体重の減少が10%以下であったものはすべて生存した(生存群)。これらの死亡群、生存群から5頭ずつ選び、脳内のウイルス学的、免疫学的解析を行った。まず、脳のウイルス量は両軍とも感染ウイルス価、RNAレベルいずれにおいても差は認められなかった。このことは、感染マウスの生死が脳内ウイルス量によって決定されるのではないことを示している。脳内におけるCD3、CD4、CD8、CD25 及びCD69の発現量においても差はなかった。従って、死亡群と生存群の脳内におけるT,B細胞の数等の差が生死を決定しているのではないと考えられた。一方、IFN gamma、TNF alpha (Th1 型サイトカイン)とIL4 、IL5 (Th2型サイトカイン)の比は、生存群に比べ死亡群において高い値を示した。さらに、脳内侵潤T細胞のT細胞レセプターの解析を行った。得られたPCR産物を全TCRα鎖可変部(TCRAV)及びTCRβ鎖可変部(TCRBV)ファミリーにそれぞれ相補的なオリゴDNAを固相化したマイクロプレートに播種してハイブリダイズさせた後、酵素反応を用いて発色させ吸光度を測定した。得られた吸光度から各TCRVファミリーの存在率を算出することにより、mRNAレベルにおける脳内浸潤T細胞のTCRVファミリーの偏在性を検討した。VA8-1、VA10-1 あるいはVB2-1を発現しているT細胞は死亡群、生存群いずれにおいても増加していた。しかし、これらのT細胞レセプターのCDR3部位のアミノ酸配列を比較すると、両軍間には相違がみられた。従って、本モデルにおいては脳内浸潤T細胞の質的な違いが、日本脳炎ウイルス感染後の生死を決定していることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究により、日本脳炎ウイルス感染マウス脳内侵潤T細胞において選択的に使用されているT細胞レセプターが明らかとなった。非感染マウスにおいて、抗体等によってこれらのTCRV発現T細胞を選択的に削除する。その後、このマウスに日本脳炎ウイルスを感染させ、感染後のウイルス動態、脳炎発症の有無を解析する。仮に上記方法によって明確な結果が得られない場合は、正常マウス末梢血リンパ球を採取し、T細胞レセプターの各Vセグメントに対する抗体を吸着させたmagnetic beadsを利用し、特定されたT細胞レセプター発現リンパ球を除去後のリンパ球をSCIDマウスに移入し、日本脳炎ウイルス特異的T細胞レセプターを保有するT細胞を欠落したマウス作成し、ウイルスを接種して症状を観察し、同定されたT細胞レセプター保有T細胞の日本脳炎ウイルス感染病態に果たす役割を明らかにする。 脳炎を発症したマウスから、脳内浸潤T細胞クローンを樹立する。ウイルス感染により特異的T細胞の出現が推測されるが、T細胞レセプターの各Vセグメントに対する抗体吸着マグネチックビーズを利用し、特定されたTCRV遺伝子発現を有するT細胞を抽出することも考慮する。 樹立した各T細胞クローンのTCRAV及びTCRBVを同定し、高発現頻度のTCR発現型を有するクローンを選択樹立する。T細胞クローンは、in vivo解析としてJEV感染マウスに移入し脳炎の症状が改善/増悪を免疫学的及び病理組織学的所見と合わせて評価する。JEV感染後7日目以降から抗原特異的T細胞の出現することから、JEV特異的に活性化する脳内浸潤T細胞を経時的に移入し、感染初期にウイルス排除に対して活性化可能なT細胞が存在する状況を作製する。樹立したT細胞クローン移入による脳炎発症および病態の軽重から、これらT細胞の脳炎発症あるいは防御における機能を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度、収集したサンプルを用いて次年度に解析する必要が生じたため、その資金を次年度に繰り越した。 日本脳炎ウイルスに感染したマウス脳を用いて詳細な免疫病理学的解析を行う。
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Research Products
(1 results)