2013 Fiscal Year Research-status Report
mTORC1シグナル非依存的な新規B細胞分化機構の解明
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25670236
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Kansai Medical University |
Principal Investigator |
松田 達志 関西医科大学, 医学部, 准教授 (00286444)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | B細胞分化 / mTORC1シグナル |
Research Abstract |
B細胞は抗体産生を介して外界の脅威から生体を守っており、特に莫大な数の腸内細菌や食物由来抗原に曝される腸管においては、腸管に分泌されるIgAが重要な役割を担っている。mTORC1シグナルに必須のRaptor分子をB細胞系列特異的に欠損させたマウス(以下、Raptor-BKOと記載)の解析を行ったところ、骨髄におけるB細胞分化がpro-B細胞の段階で完全に停止すると共に、全身からIgM陽性細胞が消失していた。しかし、腸管粘膜固有層にはIgA産生細胞が認められ、これまでの理論では説明のできない、新規IgA産生経路の存在が示唆された。腸内に分泌されるIgAの機能が十全でない場合、腸内細菌数の増加に加え、生息する細菌の種類に大きな変動が生じることが知られている。そこで、野生型マウスとRaptor-BKOマウスで腸内に生息する細菌の数ならびに種類を比較した。しかし、両者間で腸内細菌の質的・量的な差異はほとんど認められず、Raptor-BKOマウスが産生するIgAが、腸内細菌叢のバランス調節に関して十分な機能を有していることが明らかとなった。一方、抗生物質投与によって腸内細菌数を低下させたところ、Raptor-BKOマウスの腸管で産生されるIgAレベルが著しく低下することが分かった。すなわち、Raptor-BKOマウスの腸管では、宿主―腸内細菌叢の相互作用によって、誘導的にIgA産生が促されているものと考えられた。一般に、このような誘導的なIgA産生はT細胞に依存して引き起こされるものと考えられている。しかし、T細胞受容体の抗原特異性を固定したトランスジェニックマウスとRaptor-BKOを交配して得られたマウスにおいても、依然として腸内細菌依存的なIgA産生が認められたことから、Raptor-BKOによるIgA産生へのT細胞非依存的な経路の関与が強く示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、mTORC1非依存的なIgA産生経路の持つ生理的意義の追求と、従来の理論では説明のつかないIgA産生細胞への分化機構の解明を主たる目的として構想された。本年度の研究によって、Raptor-BKOマウスに見られるIgA産生が、宿主―腸内細菌叢間のホメオスタシスを制御する生理的な現象であることが明らかとなった。二つの中心課題のうちの一つに解答が与えられたことは、十分に評価されるべきものと判断する。また、腸管におけるIgA産生細胞への分化は、パイエル板におけるT細胞依存的な経路が主たる役割を果たすものと考えられている。しかし、Raptor-BKOマウスの腸管を詳細に解析したところ、野生型マウスで観察されるパイエル板におけるB細胞―T細胞相互作用がほとんど認められず、そもそもパイエル板にほとんどB細胞が存在していないことが分かった。実際、Raptor-BKOマウスのT細胞に卵白アルブミン由来ペプチドに対するT細胞受容体を強制的に発現させることで、内在性の腸内細菌への反応性を消失させた場合にも、依然として腸内細菌依存的なIgA産生が観察されたことから、Raptor-BKOマウスにおけるIgA産生はT細胞非依存的に制御されている可能性が強く示唆された。しかし、Raptor-BKOマウスでなぜIgAのみが産生され、IgMなどの他の抗体産生が認められないのか、未だに明瞭な解答は得られておらず、次年度以降の解析に託される結果となった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初予定していた検討課題のうち、Raptor-BKOマウスによって産生されるIgAの生理的意義については、ある程度の解答を得ることができた。また、IgA産生細胞への分化経路に関しても、T細胞非依存的な経路が主として機能していることを強く示唆するデータが得られている。文献的には、T細胞非依存的なIgA産生経路においては樹状細胞が中心的な役割を担うものと考えられている。腸管の樹状細胞はBAFFやAPRILといった液性因子を介してB細胞の分化誘導を制御しており、今後はこれらの因子の関与を念頭に、mTORC1非依存的なIgA産生細胞の分子基盤解明に注力する予定である。
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[Journal Article] Loss of mTOR complex 1 induces developmental blockage in early T-lymphopoiesis and eradicates T-cell acute lymphoblastic leukemia cells.2014
Author(s)
Hoshii, T., Kasada, A., Hatakeyama, T., Ohtani, M., Tadokoro, Y., Naka, K., Ikenoue, T., Ikawa, T., Kawamoto, H., Fehling, H.J., Araki, K., Yamamura, K., Matsuda, S., and Hirao, A.
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Journal Title
Proc. Natl. Acad. Sci. USA.
Volume: 111
Pages: 3805-3810
DOI
Peer Reviewed
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