2013 Fiscal Year Research-status Report
マウスTRPA1スプライスバリアントの病態生理学的意義は何か?
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25670290
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Okazaki Research Facilities, National Institutes of Natural Sciences |
Principal Investigator |
富永 真琴 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 岡崎統合バイオサイエンスセンター, 教授 (90260041)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 疼痛学 |
Research Abstract |
マウス感覚神経にExon20を欠失したスプライスバリアントTRPA1bを見いだした。生化学的解析によってTRPA1bはfull length TRPA1 (TRPA1a)と物理的に結合していることが分かった。また、TRPA1bはTRPA1aの形質膜移行あるいは形質膜への滞在を促進して形質膜のTRPA1a量を増大させてTRPA1の機能を増強させていることがパッチクランプ法を用いた電気生理学的実験で分かった。このTRPA1bによるTRPA1応答の増強はHEK293細胞を用いた異所性発現系のみならず、マウス感覚神経細胞でも確認された。また、マウスの炎症性疼痛モデルと神経障害性疼痛モデルにおいて、TRPA1欠損マウスでは有意に機械刺激痛覚過敏が減弱しており、TRPA1が炎症性疼痛および神経障害性疼痛発生に関わっていることが分かった。モデルマウスから調整した後根神経細胞では、TRPA1応答が有意に増大していた。さらに、TRPA1a遺伝子の発現増加は一過的であったが、TRPA1b遺伝子は持続的に増加しており、このTRPA1bの増加がTRPA1機能増強を介して炎症性疼痛および神経障害性疼痛発生をもたらしているものと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マウスTRPA1のalternative splicing variantを発見したので(full length TRPA1 をTRPA1a、スプライスバリアントをTRPA1bと名づけた)、TRPA1bの生理学的意義、病態生理学的意義をかなり明らかにできたと考えている。TRPA1bがTRPA1aと結合してTRPA1aの形質膜移行(あるいは形質膜への留まり)を促進して種々のTRPA1活性化刺激によるTRPA1応答(電流)を増大させることによって痛み増強をもたらしていると考えた。2つの疼痛モデルマウス(CFA投与による炎症性疼痛モデルと座骨神経部分結紮による神経障害性疼痛モデル)において、機械刺激に対する応答がTRPA1欠損マウスで減弱し、TRPA1b mRNA発現が病勢の進行に応じて増大していたことから、これらのモデルマウスの疼痛増強にTRPSA1bが関与すると考えられた。当初の目的と計画は十分に達成されたと考えられるが、以下の疑問点が残る。1) alternative splicing variant TRPA1bの疼痛モデルでの発現増大のメカニズムは何か、2) 数多く存在する疼痛モデルマウス全てにこのTRPA1b発現増大は関与するのか、3) 疼痛モデルマウスにおけるTRPA1bのmRNAレベルでの発現増大は確認できたが、蛋白質レベルでも発現増大しているか。また、TRPA1の進化解析も十分に進んだが、進化解析の「穴」を埋める「種」での解析が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果を踏まえ、次のことを進めたい。① 疼痛モデルマウスにおけるTRPA1bの発現増大に関与するかもしれない転写因子のスクリーニングを行う。② これまで作成した以外の多数の疼痛モデルマウスを作成して、疼痛関連行動(自発痛)の解析、機械刺激痛覚過敏のvon Frey試験での定量化解析、レーザー熱刺激での熱痛覚過敏行動の定量解析を野生型マウス、TRPA1欠損マウスで行い、それら疼痛モデルへのTRPA1の関与とTRPA1bの関与の体系的解析を進める。また、患側と健側のL4-L6DRGを取り出し、TRPA1a, TRPA1b遺伝子の発現をreal-time PCR法で定量解析する。また、経時的に採取したDRG細胞のTRPA1機能変化をAITCに対する応答を指標としてCa2+イメージング法で検討する。③ TRPA1bの発現増加を蛋白質レベルで確認すべく、TRA1bを特異的に認識する抗体の作成を行う。④ TRPA1の進化解析に関しては、恒温動物であるニワトリのTRPA1が熱センサーであることが分かり、哺乳類に進化して熱刺激感受性が失われたことが推定されるので、複数種の哺乳類のTRPA1遺伝子クローニングを進めるとともに、現時点では温度感受性がないとされている魚類(ゼブラフィッシュ)TRPA1の温度感受性解析を進め、アミノ酸レベルでのアラインメント比較解析から熱刺激に関わるドメインもしくはアミノ酸の同定を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度研究で、マウスTRPA1のalternative splicing variantの論文を発表することができた。この論文作成に多くの時間を要し、経費のかかる実験をあまり行わなかった。上に記載したように、平成26年度に数多くの疼痛モデルマウス作成実験を計画したこと、およびTRA1bを特異的に認識する抗体の作成をする必要が生じたので、研究費の次年度使用を決断した。挑戦的萌芽研究の支援は平成26年度までなので、平成26年度のできるだけ早い時期に、疼痛モデルマウス作成と抗体作製を行うようにしたい。 数多くのマウスの疼痛モデルを作成するために、実験動物の購入に多くの研究費をあてる予定である。実験には、野生型マウスとTRPA1欠損マウスを用いる。TRPA1欠損マウスは十分に戻し交配をしているので、コントロールの野生型マウスは同腹ではなく、業者から購入したマウスを使うことを計画しており、その購入費用にあてる。また、TRA1bを特異的に認識する抗体の作成は抗原ペプチドの作成およびウサギ免疫、血清精製までを業者に委託することを計画しており、その費用も高く、次年度に使用したい。
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