2013 Fiscal Year Research-status Report
RANKL逆シグナルを介したSOST分子の経時的な発現制御機構の解析
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25670632
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
池淵 祐樹 東京大学, 医学部附属病院, 特任助教 (20645725)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 骨細胞 / 骨カップリング / 細胞分化制御 |
Research Abstract |
骨細胞から分泌されるSclerostin(SOST)は、骨芽細胞のWnt/β-catenin経路を負に制御し、骨形成に抑制的に作用する。骨吸収・骨形成の進行と同期してSOST発現量が変動することが、両機構が連関するカップリング現象の一端を担うことが示唆されるものの、その詳細はこれまで解明されていない。申請者らのこれまでの研究から、破骨細胞の活性化において主要な役割を担う「受容体」RANKと「リガンド」RANKL間の相互作用によって、RANKL側へもシグナルが発生し、種々の細胞応答を引き起こすことが示されている。これに基づき、骨細胞に発現するRANKLが破骨前駆細胞のRANKを介して骨吸収を活性化すると同時に、骨細胞へとRANKL逆シグナルが入力され、SOSTの発現量を制御する機構を想定した。 マウス初代培養骨細胞を用いてSOSTの経時的な発現変動を解析する上で、初代培養骨細胞の骨芽細胞への脱分化が大きな障害となる。そのため、本研究課題の初年度では、最初に、骨細胞培養系の改善を試みた。骨細胞の三次元培養において、I型コラーゲンに加えてマトリゲルを添加することで、骨細胞の形質をより長期間維持することが可能であった。この研究成果は、「Establishment of improved in vitro assay methods for evaluating osteocyte functions.」(JBMM, 2013)に報告した。 続いて、上記の培養条件において、骨芽細胞へのRANKL逆シグナル入力能を持つ抗RANKL抗体様分子を添加した結果、SOST発現量の一時的な上昇が認められた。さらに、RANKLやOPGといった骨代謝制御に関わる複数の遺伝子の発現変動が刺激後早期に起こったことから、骨細胞においてもRANKL逆シグナルが機能し、種々の細胞応答を引き起こすことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、骨細胞におけるRANKL逆シグナルの存在とその詳細、さらにその生理的な役割の解明を目的としており、特に骨形成に対する抑制性分子であるSOSTの発現制御に着目して研究を進めている。 骨細胞は、生理的には骨基質中に埋め込まれた環境に存在しており、マウス頭蓋骨等から単離した初代培養骨細胞は通常の平面培養下ではその特徴的な形態や遺伝子の発現を速やかに失うことが知られている。また、骨細胞様培養細胞として頻用されるMLO-Y4細胞ではSOSTの発現が認められないなど、適切なin vitro評価系が存在しないことが骨細胞研究を遂行する上で大きな障害となっていた。研究代表者らは、I型コラーゲンにマトリゲルを適切な濃度で混合し、三次元培養を行うことで、初代培養骨細胞の脱分化による影響を比較的長期に渡って抑制出来ることを見出した。一連の骨カップリングに伴うSOSTの経時的な発現変動を検証するためには、安定した骨細胞培養系が不可欠であり、今後の検討を行う上で十分な培養条件を確立出来た。 さらに、骨細胞にRANK刺激を与えることで、短期的にSOSTやRANKL、OPGなどの遺伝子の発現が変動することが明らかとなった。長期的な影響や細胞内シグナルの詳細など、解明すべき点は多いが、骨芽細胞におけるRANKL逆シグナルの解析から種々の評価法はすでに確立済みであり、今後の検討に大きな支障はないと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
骨細胞におけるRANKL逆シグナルの生理的な役割を明らかにするために、第一に、マウスin vivoでRANKL逆シグナルを入力することでSOST発現量がどのように変動するかを確認する必要がある。RANKL逆シグナルの入力活性を持つ抗RANKL抗体様分子は既に作成済みであり、投与後の血中SOST濃度を経時的に測定することで、RANKL逆シグナルの影響を評価することを計画している。 初代培養骨細胞で認められたSOSTの発現量変動と、in vivoでの効果が一致することを確認した後に、続いて、骨細胞内のシグナル分子の活性化状態を評価する。骨芽細胞の場合にRANKL逆シグナルの下流で活性化するPI3K-Akt-mTORC1に加えて、網羅的なリン酸化プロテオーム解析を行う。活性化が認められたシグナル経路に関して、選択的な阻害剤を用いることでSOST発現制御への寄与を検証するなど、骨細胞におけるRANKL逆シグナルの全体像の解明を試みる。 さらに、破骨前駆細胞と骨細胞の共培養系、あるいは破骨細胞の培養上清を骨細胞に加えることで、破骨細胞の活性化を起点とする一連の骨カップリング現象において、SOST発現量がどのように変動するかを解析する。一連の解析を行うことで、骨カップリング機構の一端を担うと考えられるSOSTの発現制御に関して、RANKL逆シグナルがどのように関わっているかを明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題は2年間を研究期間として申請・採択されている。当初の実験計画に加えて、H25年度では初代培養骨細胞の培養条件の改善を行うことで、より生理的な環境に近いin vitro解析を行うことが可能となった。H26年度では、確立した培養系を用いた種々in vitro解析、及び計画していたin vivo解析を実施することで、本研究課題の目的である骨細胞におけるRANKL逆シグナルの詳細の解明と、骨形成における負の制御因子であるSOSTの経時的な発現制御への関与を明らかにすることを試みる。 そのため、実験試薬や実験動物の飼育等に必要な消耗品を購入するための物品費、及び成果を発表するための学会参加費・旅費や論文投稿費用を含む研究費(次年度使用額)が生じた。 H25年度での検討から、初代培養骨細胞、及びマウス生体内においてもRANKL逆シグナルが骨細胞内で機能し、SOSTを含む骨代謝に関わる複数の遺伝子の発現を制御していることが示唆された。H26年度では、まず、初代培養骨細胞を用いたin vitro解析からRANKL逆シグナルの下流で活性化される細胞内シグナル経路の同定を試みる。同定された細胞内シグナルの活性化がSOST発現量変動へどの程度の寄与を持つか評価し、また、骨吸収・骨形成のどの時期にRANKL逆シグナルが関与しているかを検証する。以上に加えて、マウスにRANKL逆シグナルの入力活性を有する抗体様分子を投与することで、SOSTの分泌量や骨表現型にどのような効果が認められるかを確認する。 申請する研究助成金は、これらの解析に必要な試薬・消耗品の購入に主に使用する予定である。
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Research Products
(3 results)