2014 Fiscal Year Research-status Report
多階層的疼痛治療開発:ナノ粒子とパワーアシストの臨床応用
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25670664
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
齋藤 繁 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40251110)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
朱 赤 前橋工科大学, 工学部, 准教授 (20345482)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 慢性痛 / リハビリテーション / 認知行動療法 / 機能的脳画像 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度の研究活動を通じて、神経障害性疼痛を始めとする慢性痛の発生に関して、基礎医学的側面から発症のメカニズム、特に組織学的、薬理学的、行動学的に知見を深めた。あわせて、高次脳機能の痛み認知に関するメカニズムについても、脱水状態という比較的頻繁に発生する状況をモデルとして、全身状態と痛みの関係を明らかにした。これまでの研究成果からは、慢性疼痛を招来する病的メカニズムは階層的、且つ段階的であり、発症機転や病期によって役割を演ずる細胞も組織学的経路も変化することが示唆された。病期を確定する診断技術開発も昨年に引き続いて取り組めた。昨年懸案であった病期に対応した治療プロトコールの確定も進めている。臨床で問題となっている場当たり的に対応を改善する方策を動物実験と臨床研究の両アプローチで進めている。慢性疼痛患者とその診療のあたる医療スタッフの双方から有効性が高いと評価される、科学的に実証された治療プロトコールの開発も更に進め、認知行動療法の科学的実践に向けて準備を進められた。 特に、難治性の慢性痛である交感神経系変容を伴った神経障害性疼痛に関しては、一般的な薬理学的アプローチに加え、神経伝導遮断を行うペインクリニック治療と認知行動療法を合体させた、包括的な治療アプローチを展開している。機能的脳画像とされるfMRIなどの客観的指標を最新工学技術と連動させて主観的アプローチが中心の従来型疼痛アセスメントの近代化に努めている。新規の慢性痛治療手段プロトコールを確立するために、開発途上の工学技術、ナノテクノロジーによる薬物徐放を積極的に応用して、医工連携による、科学的疼痛メカニズムと整合性のとれる患者の生活レベル向上を確保する治療法へと展開を図っている。徐放製剤によるコンプライアンス向上を目指した慢性痛治療も臨床成果を収集開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の研究活動で以下の成果を得た。 本研究計画で当初より推進している各種成長因子や低分子薬剤の徐放に関しては、生体に投与すると分解が速く、通常の方法では局所において長時間作用させることが困難であったものを、ポリ乳酸を用いた徐放化により問題解決を図っている。京都大学再生医科学研究所との共同で開発を進めている徐放化システム、「グリコール酸を加えたポリ乳酸を用いた局所麻酔薬リドカインの徐放システム」は臨床への道筋を確立し、臨床応用に向けての研究を続けている.ボランティアによる研究は終了し、当該年度の研究では、一回投与で週単位、月単位の鎮痛を実現できるかを、歯科領域の痛みを対象として、臨書研究データを集積中である。 また、他のリハビリテーション技術と融合させて実施する試みに関しては、「慢性痛リハビリ」として、理学療法と臨床心理学的アプローチを従来の慢性痛治療と融合させたプログラムとして実践し、症例数拡大を図っている。患者のリハビリテーションを推進させ、活動度を大きく上昇させる可能性が確認されつつある。人体に応用可能なパワーアシストシステムの開発にはロボット工学の専門的な研究者と研究計画を進めている。前橋工科大学との共同研究で、歩行補助機能を高めた歩行器などの開発を進めている。Brain Machine Interfaceと呼ばれる、脳や筋肉の電気信号からアシスト力を調整する機能の開発も開発中である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度には、臨床研究分野で更に研究データを積み重ねるために、患者やボランティアを用いた人間のデータ収集を拡大する予定である。また、青斑核などの解剖学的に複雑な疼痛伝達経路、特に下行性制御経路において、多階層的・選択的に疼痛伝導路を再構築することを動物実験では進める予定である。慢性痛を引き起こす神経伝導路の不合理な可塑性惹起、即ち神経系の悪化因子としてのリモデリングを防止し、痛み促進的に再構築されてしまった神経伝導路を正常な状態に復帰させることを、グリアの修飾や栄養因子制御で達成可能であるか、検証を進める予定である。慢性痛罹患者のADLを向上に関しては、高齢者社会において問題とされる、高齢者の痛み評価や介護との連携等を視野に、罹患者の治療コンプライアンスの向上を目指す予定である。そのためには侵襲的治療の回数を最小限にする徐放DDSの開発を更に推し進め、生活動作の自立を目指すパワーアシスト開発の第一段階を完結させたい。 上記に加え、機能的脳画像解析を中心とする、客観的痛み評価についても、SF-36などの心理・生活アセスメント、VAS、NRSなどの痛みの数値評価に加えてデータ収集を進め、情動制御の重要性等について研究成果をまとめる予定としている。本研究で実施する痛みの多階層的治療プロトコール(病期・部位選択的な超長時間作用性局所麻酔薬の高精度注入、パワーアシストを使用した積極的リハビリテーション、など)の効果を判定するためにも、これらの指標の有効性を早期に検証したい。あわせて、saliencyと呼ばれる、中枢での感覚の比較増強、あるいは比較消去の機転についても慢性痛罹患患者と健常人を比較することで、慢性痛発症の予測因子確定に繋げたい。
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Causes of Carryover |
平成26年度の動物実験支出や消耗品等支出を圧縮し、平成27年度(次年度)の「慢性痛リハビリテーション」再拡大実施に伴う必要諸経費を確保した。平成26年度実施のプロジェクトにより、「慢性痛リハビリテーション」の改変にあたり、その利便性向上に関する課題が明瞭となったが、科学的なデータ集積のためには、参加者確保の容易化により多数の検定対象を確保した上で、データ収集を行う必要性が再度確認された。そこで、平成27年度の研究実施にあたっては、企画を再拡大実施することにより、慢性痛患者に対する認知行動療法を含めたリハビリテーション実施が疼痛に関する高次神経機能の可塑性に与える影響をより確実に検証する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は前年度、前々年度の「慢性痛リハビリテーション」の企画をよりコンパクトに改変し、そして対象を拡大して実施する。従前同様に、この企画では慢性痛患者に対する認知行動療法と身体的なリハビリテーションが実施すべき主要な項目である。実施に際しては、これらの適用が疼痛に関する高次神経機能の可塑性に与える影響を前々年度の予備的研究よりも更に統一的かつ形式を拡大して検証する。科学的な批評に耐えうる研究データを集積するために、fMRIを中心とした画像解析や運動能力評価を伴う客観的評価法を充実させる。個体間の差異に関する遺伝子亜系やポストゲノム解析にも繋げられるよう、データ集積を行う。被検者の確保と個々のデータ収集には相応の経費が必要と想定される。
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