2013 Fiscal Year Research-status Report
微小電極を用いたマイクロ不可逆エレクトロポレーションの確立と歯周病治療への応用
Project/Area Number |
25670887
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
藏田 耕作 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00368870)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 歯学 / 歯周病 / 不可逆エレクトロポレーション / 微小電極 / 膜破壊 |
Research Abstract |
平成25年度は,低電圧化を図った微小電極によって形成される電場の数値シミュレーションと生体膜破壊のシミュレーションを行った.その結果をもとに最適な電極形状とパルス印加条件を決定し,微小電極を製作する際の指針を得た. 本研究の目的は,電極の幾何学形状やパルス印加条件を微小化したマイクロ不可逆エレクトロポレーション(マイクロIRE)を新たに提案することにある.マイクロIREでは低電圧化のために発生電界も小さくなる.そこでまず,IREの効果が最大となるような電極の幾何学形状を決めるために,電界強度分布の数値シミュレーションを行った.解析モデルは,ガラス基板上に形成した櫛形電極を生体組織に接触させた状態を模した2次元モデルとした.陰極と陽極の幅が1,電極間距離が0.25,0.5,1.0,1.5の4つの無次元モデルを作成し,ポアソンの式を有限要素法によって解いて静電ポテンシャル分布を求めた.さらにその勾配より無次元電界分布を得た.解析の結果,電極のエッジ部分で電界が最大となること,電極間距離が小さい場合には生体組織の浅い領域で大きな電界が発生するが深くなるにつれて急激に減少すること,電極間距離が大きい場合にはその減少の割合が小さくなること,などが明らかになった. 細胞や細菌は,膜電位差がある閾値(0.5~2V)を超えるような電界パルスを与えられると膜破壊を生じ,壊死する.上記の無次元解析より得た結果を有次元に戻し,任意の膜破壊閾値,電極幅,印加電圧に対して達成しうる壊死深さを計算できることを示した. 無次元解析結果をもとに,実際の生体組織の表層を壊死させることを想定して有次元で諸条件を検討した.その結果,微小電極のパターンを,電極幅50ミクロン,電極間距離12.5,25,50,75ミクロンの4種に決定した.これらの電極をフォトリソグラフィ法によって製作するための準備を行っている.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は,電場・温度場の数値シミュレーションと生体膜破壊のシミュレーションを行い,その結果をもとに最適な電極形状とパルス印加条件を決定して,実際に微小電極を製作する予定であった. 電場(電界)と生体膜破壊のシミュレーション方法を確立し,電極の幅や間隙の比が電界分布や細胞壊死範囲に与える影響を評価することができた.例えば,細胞直径16um(ミクロン),細胞膜1枚あたりの破壊閾値1Vを仮定すると,膜破壊に必要な電界は2×1[V]/16[um]=0.125[V/um]となる.つまり,0.125V/umより電界の大きな領域で細胞壊死が生じる.無次元解析より得た結果を有次元に変換し,任意の膜破壊閾値,電極幅,印加電圧に対して達成できる壊死深さを計算することができるようになった.その一例を示すと,上記の膜破壊閾値を持つ生体組織に対して,電極幅50um,電極間距離25umの電極を用いると,印加電圧10Vで壊死深さ20um,20Vで32um,30Vで40umを達成できた. パルス印加による温度上昇については,ポアソンの式と連成してジュール熱を発熱項にした熱伝導方程式を解くことによって,温度分布と履歴を得られることを確認した.本研究とは異なるモデルによる検討ではあるが,一般的なIREで用いられるような数十マイクロ秒程度の電気パルスを0.1秒間隔で印加する条件では,タンパク質変性を与えるほどの温度上昇は生じないことが示された. 電極表面に,唾液,プラーク,歯石,上皮組織等の電気的特性が異なるターゲットが接している状況を想定した解析は未着手であるが,解析モデルの軽微な変更で実行できる. 解析結果を参考にして微小電極のパターンを,電極幅50um,電極間距離12.5,25,50,75umの4種に決定した.これらの電極をフォトリソグラフィ法によって製作するために,マスクを準備中である.
|
Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は,電極表面に,唾液,プラーク,歯石,上皮組織等の電気的特性が異なるターゲットが接している状況を想定した解析を行う.それと同時に,フォトリソグラフィ法による微小電極の製作を進める. さらに解析結果の妥当性を検証するための実験を行う.培養用のゲル(寒天培地やコラーゲンゲル)表面に歯肉上皮細胞を播種したものを試料とし,微小電極を用いてマイクロIRE実験を行う.電極-ターゲット間のギャップを定めて電極を接触させ,そのギャップの影響,さらにギャップを満たす培養液や低誘電率ゲルの影響も検討する.その後,生死判定用試薬を用いて生存率を評価する.この結果を解析と比較し,シミュレーションの有用性,さらに歯周病治療に対するマイクロIREの適用可能性について検証する.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究の進捗具合と工夫等によって,当初の予定より消耗品の使用を節約できたために未使用額が生じた. 次年度の実験用の試薬購入に使用する.
|
Research Products
(7 results)