2013 Fiscal Year Annual Research Report
東アジアにおける「西のガラス」の流通からみた古代の物流に関する考古科学的研究
Project/Area Number |
25702013
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (A)
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
田村 朋美 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 研究員 (10570129)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 考古科学 / ガラス / 化学分析 / 製作技法 / 東西交易 |
Research Abstract |
本研究では、化学分析を通して、日本列島の遺跡から出土する「西のガラス」の生産地を推定し、朝鮮半島や中国などの隣接諸国の事例と比較研究を行うことにより、ユーラシア大陸の東西を結ぶ交易ルートの解明と、その時期的変遷を明らかにすることを目的とする。平成25年度は九州地方と一部東北地方の資料を中心に製作技法および化学組成の分析調査を実施した。調査対象とした資料は、福岡県に所在する4遺跡と宮城県に所在する3遺跡から出土したガラス玉約500点であった。 このうち、福岡県に所在する三雲井原遺跡ヤリミゾ地区から出土した気褐色透明を呈するガラス小玉(1世紀)が植物灰ガラス製であることが示され、日本列島に流入したもっとも古い「西のガラス」であることを明らかにした。 また、宮城県追戸横穴墓出土のトンボ玉について,X線CTによる構造調査および蛍光X線分析法による元素分析,X線回折法による白色物質の同定を実施した。構造調査の結果,本資料は表面にのみ文様が施された所謂モザイク貼付玉であることが分かった。すべての斑点紋を含む50箇所以上の蛍光X線分析を実施した結果,母体部分と太線斑点紋内部がナトロンガラスであるのに対し,細線斑点紋内部や斑点紋の白線部などは植物灰ガラスであった。すなわち,本資料は異なる種類のガラスを寄せ集めて作られていたことがわかった。また,斑点紋の白線部の白色粒子をX線回折法により分析したところ,酸化錫が検出された。酸化錫を利用した着色技法は地中海周辺や西アジア産のガラスには一般的に知られるが,南~東南アジア産のガラスには適用されない。これらのことから、本トンボ玉が地中海周辺から西アジアにかけての所謂「西方地域」で製造された可能性が高いことを示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、発掘調査報告書及び資料調査により日本列島におけるガラス製遺物の出土例を収集することができた。さらに上記の作業によって得られた情報に基づき、九州地方を中心に多くのガラス製遺物の分析調査を実施することができた。 平成25年度は借用資料について主にエネルギー分散型X線分析装置による非破壊元素測定を実施した。当初の予定では、必要に応じてレーザー照射型ICP質量分析法(Laser Ablation Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry : LA-ICP-MS)により未風化部分の定量分析を実施する予定であったが、本年度は定量分析を行うための資料収集のみ実施した。ただし、十分な量の資料の収集を完了しており、翌年度に速やかに実施する準備ができている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も平成25年度に実施したガラス製遺物の出土例の集成結果に基づいて、所蔵機関を訪問し、資料を実見するとともに必要に応じて分析資料を借用する。今後は近畿地方および東日本の資料を中心に調査を行う。 今後は平成25年度に収集した資料も含め、レーザー照射型ICP質量分析法による未風化部分の定量測定を重点的に実施するとともに、国内の研究機機関が所蔵する西方地域(地中海周辺~西アジアの生産地遺跡や周辺遺跡出土品)出土ガラス製品の分析調査を実施し、日本列島出土品の具体的な生産地の同定を試みる。 西方地域出土ガラスに特徴的な不透明着色ガラスについて、レーザーラマン分光分析およびX線回折分析により不透明ガラス中に含まれる結晶物質の同定をおこない、着色技法の解明をめざす。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
レーザー照射型ICP質量分析法(Laser Ablation Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry : LA-ICP-MS)により未風化部分の定量分析を実施する予定であったが、試料数を増やしてからまとめて分析に供する方が分析費用が廉価であっため、平成25年度は分析用飼試料の収集のみ実施し、レーザー照射型ICP質量分析を行わなかったため。 破壊分析の許される試料が一定数準備できたので、レーザー照射型ICP質量分析法(Laser Ablation Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry : LA-ICP-MS)により未風化部分の定量分析を専門業者に委託して実施する。
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