2013 Fiscal Year Annual Research Report
農地再生事業による社会的包摂の試み―アクションリサーチによるリーダー的人材育成―
Project/Area Number |
25705015
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (A)
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
綱島 洋之 神戸大学, 学内共同利用施設等, 研究員 (10571185)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 貧困・公的扶助 / 雇用創出 / 農業教育 / 障害の社会モデル / 労働観 / ディープエコロジー |
Research Abstract |
近年,日本国内における農業の縮小と耕作放棄地の増大の結果,都市住民が農地の活用に参入することに農政が期待を寄せつつある一方,若年就労困難者や障害者の就労支援においても農作業を取り入れることの有効性が議論されている。 本研究は,2011~2012年度科研費事業「農地再生事業による社会的包摂の試み―大阪近郊棚田地域におけるアクションリサーチ」に引き続き,高齢野宿者や就労困難を抱える若者と耕作放棄地を耕作して雇用創出や就労支援を試みる課題発見型実践研究を展開してきた。そして,未経験者を指導することができるリーダー的人材の不足という課題を新たに抱えた。この新しい農業教育上の課題を議論するうえで,出発点をどこに置くのかを特定するために,参加者が作業中に「過失」を犯すたびに,その原因や予防策の有無を検討した。 その結果,「過失」には「指示されたとおりに作業できないこと」と「指示されずに作業できないこと」の2類型が見出された。前者は,理科教育や発達障害に関する知見を踏まえて技術的に対応することが可能だが,後者は,農業観や労働観に踏み込んだ考察がなければ解決は困難である。農作業というものが,人間と作物の相互作用であるならば,作物との不断の「コミュニケーション」が必要とされている。一般的に従来の就労支援の取り組みは,対人コミュニケーションの向上を図ることを優先するため,「対作物コミュニケーション」という農業労働の本質に到達することは難しい。つまり,農作業が就労支援の一時的な手段とみなされている限り,参加者が農作業に必要な技能や知識を習得する機会を持つことが困難であり,農地を維持する主体がなかなか育たないという,就労支援と農業労働の間にある緊張関係が明らかになりつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請時の想定外な方向に理論的深化を進めることができたため,当初の予定通りアクションリサーチの枠組みを維持しするのではなく,むしろ新たに発見された課題に取り組む必要が生じている。その結果,当初の計画の一部は未だ実行されていないが,その必要性がなくなりつつあるとも考えられる。そこで,想定外の進捗と計画の未遂行が相殺されているという結論になる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は,上記の「緊張関係」の止揚という課題に取り組むことになる。 農業労働において,人間と作物・家畜との間の共生的関係から生まれる感動が,人間の就労意欲を喚起すると考えられる。農作業というものが,人間と作物の相互作用であるならば,作物との不断の「コミュニケーション」が必要とされている。一般的に従来の就労支援の取り組みは,対人コミュニケーションの向上を図ることを優先するため,「対作物コミュニケーション」という農業労働の本質に到達することは難しい。 「障害」は社会あるいは文化の構築物であるという。都市的労働環境において,対人コミュニケーションが苦手なことが「自閉」とみなされるのであれば,農的労働環境においては,「対作物コミュニケーション」が苦手な定型発達者も「自閉」である。そこで,農業教育にソーシャル・スキル・トレーニングの手法を援用する。この際に,就労希望者がおのおの作物を観察して得た感動を表現することが必要になる。これは一種の芸術活動であり,学習の場に芸術家を助言者として招待するなどして,就労希望者が表現技法について多様な発想を得られるように工夫する。以上のトレーニングの成果を,リーダー希望者が他の就労希望者に作業内容を指示する際に応用できれば,本研究の目標に到達する方途が開かれることになる。 その先に,都市の「新しい貧困」に呼応する形で登場した社会的排除/包摂アプローチに,農学,障害学,ディープ・エコロジーなどの要素を付加することにより,既存の社会的包摂概念を脱構築することが可能になると考えられる。そして,都市の求職者が農空間あるいは農村で働くことと農村の活性化を両立させ,農村-都市間に新しい社会連帯の形を提示できると考えられる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「物品費」については,購入を予定していたパソコンやインターネット端末が研究対象者個人の所有物で代替することができたことと,研究の方向性の変化に伴い購入を予定していたデジタルビデオカメラが必要になる段階まで当初の研究計画が遂行されていないことによる。 「人件費・謝金」については,研究の方向性の変化に伴い,「助言指導者に係る謝金」が必要になる段階まで当初の研究計画が遂行されていないことによる。 「その他」に関しては,支払いを予定していた実施地や自動車の借料が,所有者の厚意により浮いたため。 研究計画調書で算出した額と同程度の予算が確保できたため,研究計画調書に記載したとおりに使用する。
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Research Products
(3 results)