2013 Fiscal Year Annual Research Report
単一100アト秒パルスを用いた超高速コヒーレント制御
Project/Area Number |
25706027
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (A)
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Research Institution | NTT Basic Research Laboratories |
Principal Investigator |
増子 拓紀 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子光物性研究部, 研究主任 (60649664)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アト秒科学 / 単一アト秒パルス / 原子・分子光学 / 量子光学 / 量子化学 / 超高速レーザー物理 / 高次高調波 / 高強度物理 |
Research Abstract |
本研究は、世界最短級の単一100アト秒(10^-18 s [as])パルスを用いた物質コヒーレント制御を目的としている。アト秒パルパルスとは、極端紫外(XUV)および軟X線領域における超短パルス光源であり、またコヒーレント制御とは物質の波動性を光操作する技術である。この光源は、超高速運動を伴う電子制御に適しており、新たな化学反応制御や物質創世に繋がる期待がある。本研究期間は3年を予定している。 2013年度(初年度)において、我々は近赤外領域フェムト秒パルスに偏光制御法と二色合成法を組み合わせたDouble Optical Gate(DOG)法を用いる事で、世界最小の基本波パルスエネルギー(<250 μJ)から水の窓領域に当たる炭素K殻吸収端(光子エネルギー:284 eV)にまで達する超広帯域白色スペクトル(光子エネルギー帯域幅: >140 eV)を持つパルス発生に成功した。その帯域幅から見積もられるパルス幅は20アト秒にも到達し、1原子時間単位(24 as)よりも短い。この光源は、生体分子等の有機化合物への応用が期待出来る。 次に、単一アト秒パルスを用いて自動電離に伴う内殻電子の遷移制御実験を行った。自動電離とは、内殻電子が外殻の非占有軌道へ光励起する際の配位間相互作用により決定される(ファノ共鳴)。この過程は、数アト~数百フェムト秒(10^-15 s [fs])の極短時間の緩和時間を有する。我々は、単一アト秒パルスを用いることで、ネオン原子内の50.6 fsの緩和時間を持つ自動電離測定に成功した。また、能動的な電子遷移の制御を行い自動電離過程から放射されるコヒーレント光を50.6 fsから3 fsまでパルス圧縮する事に成功した。この成果は、XUV領域においても、パルス圧縮器や周波数変換器を構築出来る可能性を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々がDOG法を用いて発生した単一アト秒パルスは、15 eVの真空紫外から炭素K殻吸収端(284 eV)の軟X線領域にまで到達する。研究の次段階にあたるコヒーレント制御を行う上で、波長帯域幅は光位相変調を可能とする範囲を広げる意味でも重要な値である。また事実上、物性応用を行うためには励起波長範囲を確保する事が優位となる。過去の事例では、単一アト秒パルスに相当する帯域幅は50 eV程度(60~110 eV)に制限されており、波長選択性も小さい問題がある。圧倒的な波長広帯域幅と波長選択性を持つDOG法を用いたアト秒パルスは、物質コヒーレント制御に対して利点がある。また、我々は、世界的に主流として用いられているアト秒ストリーク法を用いてアト秒パルスの位相計測を行った。この時間計測法は、単一アト秒パルスにより電離した光電子を、近赤外領域フェムト秒パルスの電場を掃引する相互相関法である。得られる位相情報は、コヒーレント制御には欠かせないものであり、次段階において位相制御技術と組み合わせる予定である。 一方、単一アト秒パルスの応用実験として行った希ガス原子に対する自動電離過程の内殻遷移制御は、分子・固体・生体物質に対しても応用可能である。従来のパルス幅の長い光源では不可能であった緩和時間の短い内殻電子に対する交差準位(コニカルインターセクション)の探索や操作が可能となる。交差準位部に対する電子遷移の操作は、最終的な物質の構造を決定することにも繋がるため、新物質の創世さえも見えてくる。さらに、光位相変調を用いる事で更なる電子波束の状態制御の自由度も増すと考えられ、現在、装置の構築を行っており、今後の研究計画として進めて行く予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
単一アト秒パルス発生においては計画通りの結果を得ており、また従来の位相計測法であるアト秒ストリーク法を用いた位相計測にも成功している。次なる段階は、二つのアト秒パルス間の位相干渉を利用したリアルタイム位相計測を確立する事である。この装置で重要な点は、二つのパルス間に遅延時間を与える装置の時間的な揺らぎを抑える事である。従来の可視域とは異なり、XUV領域では光の波長が短い分、位相干渉を観測する上で安定性が求められ、30倍程度の装置の耐震が要求される。また、気体分子の強い吸収により真空中でしか伝搬しないアト秒パルスにおいては、真空ポンプの機械的な振動を抑える必要性もある。これらの問題点を克服し開発した遅延時間を与える機能を備えた空間分割型ミラーは、3時間の計測において10アト秒(二乗平均平方根)の安定性を持つ。距離分解能では3ナノメートルに対応する。この分割ミラーを用いて、今後の位相干渉実験を行う予定である。 同時に、光位相制御を行う為の空間光位相変調器の設計および構築を行っている。可視領域では、液晶素子を用いた空間光位相変調器が開発され、フェムト秒パルスの能動的な位相制御が実現し、多くの分子ダイナミクスの解明に貢献してきた。しかしながら、XUV領域では光の強い吸収に伴い透過光学素子や直入射反射光学素子が極めて乏しい。それ故、装置を斜入射型の反射光学系で設計する必要がある。現在、高精度なピエゾ素子をアレイ型に装備した位相変調器の開発を行っている。この装置は、高い距離分解能と安定性が求められるため、装置自体の剛性を考慮した設計を行った。今後は上記の位相干渉測定法およびアト秒ストリーク法を用いた位相操作の実証実験を行う予定である。
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Research Products
(11 results)