2014 Fiscal Year Annual Research Report
単一100アト秒パルスを用いた超高速コヒーレント制御
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25706027
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Research Institution | NTT Basic Research Laboratories |
Principal Investigator |
増子 拓紀 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子光物性研究部, 主任研究員 (60649664)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アト秒科学 / 単一アト秒パルス / 原子・分子光学物理 / 量子光学 / 量子光エレクトロニクス / 超高速レーザー物理 / 高強度物理 / 高次高調波 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、世界最短級の単一アト秒(10^-18 s [as])パルスを用いた物質コヒーレント制御を目的としている。アト秒パルパルスとは、極端紫外(XUV)および軟X線領域における超短パルス光源であり、またコヒーレント制御とは物質の波動性を光操作する技術である。この光源は、超高速運動を伴う電子の観測や制御に適しており、新たな化学反応制御や次世代の光応答デバイス開発に繋がる期待がある。 2014年度は、前年度において開発した極端紫外領域の単一アト秒パルスを用いて、これまで観測することが困難であった物質中の内殻電子ダイナミクスを観測することに世界で初めて成功した。単一190アト秒パルスにより誘起された内殻電子が作り出す双極子応答により発生するコヒーレント光を、スペクトル位相干渉法(SPIDER: Spectral phase interferometry for direct electric-field reconstruction)と呼ばれる光計測技術を組み合わせる手法を開発し、内殻電子の運動情報を読み出すことを実現した。この計測されたスペクトル位相情報は、誘起された双極子の振動周期・位相・緩和時間といった電子運動に関する全ての情報を取得可能とする。また、我々は電子の運動情報を読み出すと同時に、近赤外領域フェムト秒(10^-15 s [fs])パルスを用いて、内殻電子の運動を能動的に操作することにも成功した。これらの成果は、英国科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」にて報告された。これらは、従来まで未開領域であった内殻電子を用いた超高速応答の光デバイス開発や新たな化学反応制御の開拓に繋がるものと期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に開発した手法である単一アト秒パルスとスペクトル位相干渉法の組み合わせは、物質中に存在する内殻電子のコヒーレントな運動を読み出すことを可能とする。この成果は、当初の研究計画に沿った研究内容であり、これまで順調な成果を得ている。今回、明らかにされた内殻電子の双極子運動は、光と物質の相互作用において基礎的かつ極めて重要な知見となる。例えば、アト秒時間領域で変化する吸収係数・反射係数・屈折率を決定づけることもできるため、瞬時的に物質を操作し、超高速応答の光スイッチを作成することにも可能になると考えられる。本年度は、初期の原理実証を兼ねるため、単純なネオン原子をターゲットとして実験を行ったが、本技術は分子や固体材料に対してより一層の研究意義が生まれる。分子や固体では、電子の双極子運動のみならず、原子核の運動も付随して誘起されるため、電子遷移の励起準位が時間的に随時変化する。つまりは双極子応答に「分散」の概念が生まれる。緩和時間の極めて短い内殻電子に対するこれらの調査は、従来のパルス幅の長い光源では不可能であった。単一アト秒パルスを用いた本手法は、内殻電子に対する交差準位(コニカルインターセクション)の探索や操作にも繋がる。交差準位部に対する電子遷移の操作は、最終的な物質の構造を決定することにも強く寄与するため、従来の技術では不可能であった新物質の創世さえも見えてくる。本手法を基幹技術とし、更なる物質コヒーレント制御の応用実験に今後は挑戦する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次なる段階は、単一アト秒パルスにより誘起される内殻電子を利用した半導体材料中における双極子の運動計測である。通常、電子は、「外殻電子」と「内殻電子」に分類でき、「内殻電子」は、光情報処理デバイス等で利用している「外殻電子(=価電子)」よりも1桁以上高い遷移エネルギーを持ち、その運動(双極子応答)も100万倍~10億倍高速である。従って、半導体材料中の「内殻電子」のコヒーレント制御(自在に操ること)が実現できれば、極めて高速な光情報処理技術の原理実証を行うことができる。 本年度に行ったネオン原子(希ガス)における調査結果では、内殻電子の遷移(2s-3p)に対する緩和時間は35 fs(10-15秒)と求められ、これは外殻電子(価電子)が通常持つns(10-9 秒)の緩和時間よりも、100万倍以上速い。また、双極子の振動周期はわずか90 asである。本結果は、原理上、10 PHz(1015 Hz)以上の超高速応答デバイスを実現できる可能性を示唆しており、新たな物性研究に大きく貢献するものと期待される。開発した本手法を元に、さらなる超高速物理の解明を行っていく予定である。
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Remarks |
【受賞】レーザー学会学術講演会第35回年次大会の優秀論文賞 山口 量彦、増子 拓紀、小栗 克弥、須田 亮,後藤 秀樹「単一アト秒パルスを用いた自動電離過程における双極子応答の位相再構成」レーザー学会学術講演会第35回年次大会、C-12pIV-3、東海大学、高輪、2015/1/11-12
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Research Products
(12 results)