2013 Fiscal Year Annual Research Report
核スピン偏極コントラスト変調法の高効率化による多種フィラー充填ゴムの精密構造解析
Project/Area Number |
25706033
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (A)
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
能田 洋平 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 任期付研究員 (50455284)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 中性子小角散乱 / コントラスト変調法 / 核スピン偏極 / フィラー充填ゴム |
Research Abstract |
補強材としてシリカおよびカーボンブラックが充填されたゴム材料は低燃費タイヤ等に応用され、我々の生活になくてはならない材料として役立てられている。ゴム材料の各種物性値を総合的に向上させるためには、複数種の充填粒子(フィラー)を共存させることが有効であるが、このような多種フィラー充填ゴムは、産業界での重要性にも関わらず未だにその構造理解は十分でない。そこで、これまでに我々が開発を進めてきた「水素核スピン偏極コントラスト変調法」を応用することで、各種のフィラーに由来する散乱を個別に分離し、散乱プロファイル解析の信頼性を向上させることで、詳細かつ高精度な構造情報を得ることを目標とする。本プロジェクト初年度である平成25年度には、その目標実現のために必須となる水素核スピン偏極効率の向上を進めた。水素核スピン偏極度は中性子散乱長と線形比例関係にあり、水素核スピン偏極度の向上は散乱コントラストの可変幅拡大を意味する。結果として、通常はコントラストが微弱なため観測が難しい成分由来の散乱観測を容易なものとでき、更には、他成分の散乱観測を妨害するような過大な散乱源となる成分のコントラストを意図的に抑えることができる。事前調査によれば、水素核スピン偏極度向上のためには、電子スピンから水素核スピンへの偏極移動を促すマイクロ波照射の高出力化が有効であると予見されていた。高出力(1W)のマイクロ波増幅器を新規に導入すると同時に、マイクロ波伝送経路の最適化を実施することで、マイクロ波最高出力の前年度比100倍化を達成できた。その結果、シリカ充填ゴム材料に対して、水素核スピン偏極度を前年度最高値から大幅に増大させることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクトの初年度目標は、水素核スピン偏極コントラスト変調法のコントラスト可変幅の拡大のために、水素核スピン偏極効率を向上させることであった。プロジェクト開始前の予備調査によれば、水素核スピン偏極度のマイクロ波出力依存性の観測結果から、最大のマイクロ波出力においても更なる水素核スピン偏極度向上が見込めると予想された。このような背景から、プロジェクト初年度にはマイクロ波照射の高出力化を重点的に進めた。高出力のマイクロ波増幅器の新規導入や、マイクロ波伝送経路の最適化の結果として、シリカのみを充填したゴムに対して、プロジェクト開始前の最高偏極度を大きく上回ることができた。このように上々なスタートを切ることができ、プロジェクト2年目に予定している中性子小角散乱実験に向けて大きく弾みがついた。このように、本プロジェクトは概ね順調に進展しているといえるが、当初の予想とは異なった結果として、カーボンブラックを充填したゴム試料を対象とした実験では、水素核スピン偏極度が、シリカのみを充填した場合に比較して顕著に低下してしまうことが明らかとなった。その後の調査により、カーボンブラック添加試料では、試料厚みを薄くすることで結果が改善するという結果が得られている。ここから、カーボンブラックがマイクロ波吸収体となって試料内温度を上昇させ、水素核スピン緩和を促進する結果につながっているのだと推論される。現在、カーボンブラックのマイクロ波吸収によるゴム試料内部加熱を抑え、周囲の液体ヘリウムによる冷却効率を高めるべく、更に薄厚の試料を作成するなどの対策を講じている。
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Strategy for Future Research Activity |
プロジェクト2年目である平成26年度には、プロジェクト最重要ミッションである多種フィラー充填ゴムの核スピン偏極状態下での中性子小角散乱実験を実施する。当初計画では、中性子小角散乱実験は日本原子力研究開発機構が運営する研究用原子炉JRR-3に設置されているSANS-J-IIでの実験を予定していたが、現在のところ、JRR-3の稼働再開の見通しが立たないという状況である。このため、計画を見直し、加速器型パルス中性子源であるJ-PARC に設置されている中性子小角散乱装置(BL15 大観)にて実験を行うこととした。J-PARCは供用施設でありその利用には申請を行い課題採択される必要があるが、既に、プロジェクト初年度に申請を行い、高い競争率の中、無事、採択されるに至っている。平成26年度秋期の実験に向け、現在、持ち込み機器の安全性の見直しなどの準備を進めている。その一方で、最近の実験の結果、カーボンブラックを充填したゴム材料では水素核スピン偏極度が芳しくないということが明らかとなり、その対策は種々講じてはいるものの、構造解析対象とするゴム材料についての再検討を並行して進めている。試料準備としては、水素核スピン偏極を高効率で起こすために、電子スピン源として安定有機ラジカルTEMPOを試料内に導入する必要がある。こちらのドープ方法は既に確立したものであるが、実験スケジュールに合わせて、電子スピン共鳴法によるラジカル濃度の定量や、またオフライン実験による水素核スピン偏極性能の確認など、本番の中性子実験に先立って入念な予備実験を予定している。データ取得後の散乱プロファイル解析については、異種粒子間の相関に関する解析モデルを最近確立したばかりで、そちらを有効に適用できるものと期待している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
競争入札の結果、マイクロ波増幅器の価格が当初計画よりも、安価に入手することが可能となったため。 中性子小角散乱実験は、当初、研究用原子炉JRR-3にて実施する予定であったが、JRR-3の稼働再開の見込みが立たないため、J-PARCにて実施するように計画を変更した。それに伴い、装置のケーブルや配管の取り回しの変更が新たに必要となる。これらの装置更新のための費用とする。
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