2013 Fiscal Year Annual Research Report
量子縮退バルク励起子の励起子Lyman分光法による精密観測
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25707024
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉岡 孝高 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70451804)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 光物性 / 励起子 / 高密度励起現象 / レーザー分光 |
Research Abstract |
2.3Kに冷却した亜酸化銅単結晶に形成した歪誘起トラップポテンシャル中にパラ励起子を蓄積し、励起とは垂直方向から1s-2p遷移の共鳴に合わせた、波長可変単一縦モード量子カスケードレーザーによるプローブ光を照射した。その上でトラップされた励起子の約8倍の拡大像を中赤外領域で作成し、窒素冷却MCT検出器を二次元的に掃引しながら各位置において微分透過量を測定した。励起光の横モード形状や拡大結像系の調整を進めた結果、トラップされたパラ励起子の誘導吸収イメージを明瞭に捉えることに成功した。また、トラップ中で1s-2p共鳴がシフトすることを確認しており、数値計算との比較を進めている。励起光、プローブ光はともに音響光学素子を用いて高速に矩形状に切り出しを行っており、プローブ光の強度を16ビットのADコンバータで同期検出して微分変化量を算出することで、中赤外領域において5桁のダイナミックレンジを確保して希薄なパラ励起子の検出を可能にした。 一方、希釈冷凍温度において進めている、希薄で安定なボースアインシュタイン凝縮体の形成実験において、凝縮体の存在を示唆する異常な発光強度の振る舞いが観測されている。そこで上記の成果を活用し、運動量保存則の要請から輻射緩和を生じない凝縮体を直接観測するために、誘導吸収イメージを取得する実験系の構築を進めた。希釈冷凍温度を維持しながら中赤外レーザー分光を可能とするためには、中赤外光を透過する窓材を使用しながら室温の熱輻射を最小限に抑えることが肝要である。そこで輻射シールドにおける窓材として、1s-2p遷移の共鳴波長付近のみを透過する狭線幅バンドパスフィルタを採用した。その結果120mK台のベース温度を実現することに成功し、実際にプローブ光を試料に透過させ、拡大像を取得する段階まで到達することができた。これにより、凝縮体の誘導吸収イメージを取得する準備が整った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画通り、液体ヘリウム温度においてトラップした励起子の誘導吸収イメージの取得に成功した。また、希釈冷凍機での中赤外レーザー分光を実現しながら室温の熱輻射も制限するという、実験的に挑戦的な課題も克服し、十分に低温のベース温度を実現した。 加えて、実際に中赤外光を冷凍機内に導入した状態でプローブ光の拡大イメージを形成する段階まで研究が進捗し、超低温領域での安定なボースアインシュタイン凝縮体の有無を判断できる直前の状態まで進展させることができた。以上の点から、当初の計画以上に進展したものと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
まず引き続き、希釈冷凍機温度における1s-2p誘導吸収イメージの取得の実現に向けて実験を進める。その上で安定なボースアインシュタイン凝縮体の直接観測を行う。平行して、液体ヘリウム温度において観測されている1s-2p遷移の共鳴エネルギーの歪場中でのシフトについて理論計算を進め、実験結果との定量的な比較を行う。応力印加の下での2p励起子準位の分裂やシフトについては未だ過去の研究が十分でなく、この教科書的な励起子系の基礎物性の理解の観点からも重要な研究となるものと考えている。 凝縮体の形成が確認できた場合には、この理論計算との精密な比較によって、密度をさらに上昇させた場合の励起子間相互作用に起因する平均場エネルギーの抽出や二体非弾性散乱の影響、800mKにおいて観測されている緩和爆発との関連を明らかにする。一方、未だ凝縮体が形成されていない場合には、1s-2p遷移による絶対密度計測の優位性を生かして量子相転移条件をはじめとして原因を探り、凝縮体形成にあたって励起子系特有の物理現象が生じていないか、慎重に調べる。 一方で、希薄励起子系のスピン転換ダイナミクスの超高速分光を実現するための高安定モード同期チタンサファイアレーザーの開発を開始し、中赤外パルス光への非線形変換の準備を進める。デュアルコム分光法等、周波数コムを用いた最新の分光法を適宜固体分光実験に適用することも検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成26年度にモード同期チタンサファイアレーザーの製作を予定しており、これには単一縦モード高出力半導体レーザーを励起レーザーとして導入する必要がある。モード同期レーザーを2台同時に用いることで最先端の分光法を固体系に初めて適用できることから、さらなる高出力レーザーの導入を検討することに大きな価値があると判断した。そこで平成25年度の支出を抑えて学術研究助成基金助成金分を平成26年度に使用することで、研究の進捗に応じて当該励起レーザーの導入を進めることとした。 平成26年度の研究の進捗にあわせて、出力10W以上の単一縦モード高出力固体グリーンレーザーを導入し、さらに高安定モード同期チタンサファイアレーザーを2台製作することとする。
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Research Products
(2 results)