2013 Fiscal Year Annual Research Report
半導体超格子におけるテラヘルツ利得の増強と電場効果制御
Project/Area Number |
25707026
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (A)
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
鵜沼 毅也 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20456693)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 半導体超格子 / テラヘルツ |
Research Abstract |
本補助金・助成金で購入されたフェムト秒レーザーを用いて,テラヘルツ時間領域放射分光システムを構築した。この分光システムは,設計・作製された様々なGaAs系超格子のミニバンド構造に合わせて,励起光パルスの中心波長およびスペクトル幅を広く変化させることができるという特徴を有する。本年度は,キャリアの高速運動であるブロッホ振動からのテラヘルツ放射波形を室温において測定し,直流印加電場に対する複素伝導度スペクトルの振る舞いを調べた。 最大エントロピー法に基づいて放射波形の時間原点を定めた上で,複素フーリエ変換を施して伝導度スペクトルを求めたところ,キャリアの室温ブロッホ振動に由来して負値の実部をもつ(電磁波の増幅作用をもつ)利得領域が現れた。直流印加電場の増加にしたがって,利得領域が高周波数側へ拡大していく様子が観測された。このテラヘルツ利得は,キャリアの反転分布を伴わない機構によって発生していると考えられており,反転分布の形成が原理的に困難な室温における半導体素子の性質として大きな利点をもつ。 現在,テラヘルツ放射波形の検出に用いられる電気光学結晶の厚さを段階的に薄くすることによって,分光システムの広帯域化を進めている。次年度もそれを継続してさらに高いブロッホ周波数へ対応できるようにし,テラヘルツ利得に対する電場効果の物理的理解を深める。また,超格子試料の温度を調節できるように上記分光システムを拡張することにより,温度に対する複素伝導度スペクトルの振る舞いを調べ,キャリアの熱励起や散乱がテラヘルツ利得特性へどのように影響するかについての詳細な情報を引き出す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
時間原点決定法を備えたテラヘルツ時間領域放射分光システムを予定通りに立ち上げ,半導体材料をベースとした超格子構造の複素伝導度スペクトルを系統的に取得・解析しつつある。実験的見地から,データに基づいてキャリアの室温ブロッホ振動のテラヘルツ利得特性を議論できるようになっており,より詳細な物理的理解と制御に向けた指針を導くことができた。特に,直流バイアス電場や試料温度に対する複素電導度スペクトルの振る舞いを調べる上で分光システムの拡張すべきポイントが明確になり,また,超格子構造を工夫する上で有用な知見が得られている。それらの拡張や工夫に着手するための具体的手段が詳しい検討を経てよく準備されており,次年度の計画へスムーズにつながる状態である。 以上のことから,全体として,テラヘルツ利得の増強および電場効果制御を達成するための研究が順調に進展しているものと評価される。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究はこれまでおおむね順調に進展してきているので,今後も引き続き時間原点決定法を備えたテラヘルツ時間領域放射分光を中心的な計測手法として使用し,GaAs系超格子における複素伝導度スペクトルおよび直流電流-電圧曲線を評価する。キャリアのブロッホ振動について,まだ十分に認識・活用されていない普遍的性質,および超格子構造の高度な工夫によって発現する特異的性質を重点的に取り扱う。得られる実験結果を微視的なレベルまで詳しく理解するために,適宜,モデル理論計算との比較も行いつつ,議論を進める。テラヘルツ利得の増強と電場効果制御のために本質的な特徴を見出し,学理を構築していく。 次年度は,超格子試料の外部から変化させることのできる実験パラメータとして温度を加えながら,主に基礎物理的な側面を明らかにしていく。測定データを超格子試料の構造パラメータの設計にフィードバックしつつ,研究の展開を図る。全4年間の2年目にあたることを意識し,研究成果を学会発表や学術論文の形で積極的に国内外へ発信していく。また,専門家以外の幅広い方々に伝わりやすい形の情報提供も心がける。対象物質・構造の特性や測定手法の有効性を示すことによって,成果が社会で広く活用されるようにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は,テラヘルツ時間領域放射分光システムを構築するために超短パルス一体型モードロックチタンサファイアレーザーの購入費をはじめとした多額の出費が見込まれたが,当初の予想に比べて初期費用を抑えることができた。現在,研究目的・計画に沿って,この分光システムの拡張を段階的に進めている。特に,試料温度の調節や信号対雑音比の向上を実現するための追加予定物品は高価であり,本年度に得られた研究成果に基づいて,物品が備えるべき仕様を注意深く見極める必要があった。上記の理由から,物品の追加購入を次年度に実施することが適当であると判断したため,助成金の次年度使用額が生じた。 低温から室温以上までの温度調節機構とテラヘルツ用の透過窓をもつ,小型クライオスタットシステムを導入する。また,テラヘルツ放射電場の検出に用いる電気光学結晶を,実験条件に合わせて使い分けられるように複数枚そろえる。電気光学結晶は材料や厚さやによって異なる感度特性をもち,材料の特殊性や加工の難易度に応じて一枚ずつが高価であるので,測定結果を確認しつつ結晶の購入を進める。上記のクライオスタットや電気光学結晶の性能を最大限に発揮させることができるよう,それらの周辺部分には光学部品・制御機器を追加する。実験の進行に伴って,超格子試料作製用の半導体材料,クライオスタットへ流す寒剤,テラヘルツ放射のロスを避ける不活性ガスなどを相当量消費するので,随時購入する。
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