2015 Fiscal Year Annual Research Report
半導体超格子におけるテラヘルツ利得の増強と電場効果制御
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25707026
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Research Institution | Nagaoka University of Technology |
Principal Investigator |
鵜沼 毅也 長岡技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20456693)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 半導体超格子 / テラヘルツ |
Outline of Annual Research Achievements |
温度可変のテラヘルツ時間領域放射分光システムを用いて,半導体超格子におけるブロッホ振動の位相および複素伝導度スペクトルを系統的に調べた。本年度は,昨年度までの結果を踏まえて複数のGaAs系超格子構造を用意した上で,直流印加電場を変化させることによってブロッホ周波数を変化させながら,初期位相と位相緩和時間が試料温度へどのように依存するかについて定量的な測定・解析を進めた。それらの振る舞いを反映した複素伝導度スペクトルを求めることによって,テラヘルツ利得特性を議論した。また,超格子構造における膜厚や界面状態がテラヘルツ利得特性に及ぼす影響を把握するために,走査トンネル顕微鏡を用いた断面観察にも着手した。
重点的に実験を行った摂氏-193度から室温までの各試料温度において,測定されたテラヘルツ放射波形に時間原点決定法(最大エントロピー法)を適用し,ブロッホ振動による減衰振動の信号を解析した。その結果,低温から室温までの温度範囲で,ブロッホ振動が特殊な初期位相を維持していることが示唆された。これは,室温において複素伝導度スペクトルの実部に負の領域(電磁波の増幅利得を意味する領域)が現れることの背後にある本質的な理由であると考えられる。位相緩和時間は試料温度の上昇と共に短くなっており,キャリアが格子振動による散乱を受けていることが示唆された。複数の超格子試料について同様の結果が得られたことから,室温においても直流印加電場の下で,等間隔なエネルギー準位がブロードニングを伴いながら形成され,キャリアが特殊な初期位相からブロッホ振動を開始するという共通の物理的性質が抽出されたと理解できる。上記の成果を日本物理学会第71回年次大会で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
温度可変のテラヘルツ時間領域放射分光システムを駆使し,GaAsおよび関連の半導体材料をベースにした複数の超格子構造において,ブロッホ振動の位相に関する新たな物理的知見を得ることができた。これは,テラヘルツ増幅利得を室温で直流電場の印加により幅広く制御するために本質的である。次年度に,データの信号雑音比を向上させるための追加実験を行ったあと,成果の英語論文を専門誌に投稿できる見通しである。また,得られた知見に基づいて,超格子構造をさらに工夫していくことができる状態である。以上のことから,総合的に,目的の達成に向けて研究が順調に進展していると評価される。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の成果を核とした英語論文を早期に執筆する。一方,その物理的知見を基礎とした超格子構造の工夫を並行して継続し,新規試料の設計・作製・評価を効率的に進めることによって,テラヘルツ利得の増強と電場効果制御に関するさらに発展した成果を目指す。本研究に割り当てることのできる実験スペースが本年度から大幅に増えて機能的に拡充されたため,次年度も高い作業効率を実現することが可能な見通しである。評価面では,フェムト秒レーザーパルスをトリガーにしたテラヘルツ時間領域放射分光をこれまで同様に駆使しながら,直流電流-電圧曲線の同時測定や,走査トンネル顕微鏡による断面観察を併用していく。次年度が最終年度であることを意識して,キャリアの反転分布を伴わない増幅利得の非平衡物理およびデバイス応用上の長所を学理として確立すべく,研究を推進する。
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Causes of Carryover |
初年度に購入した超短パルス一体型モードロックチタンサファイアレーザーの付属品が徐々に消耗するため様子を見ており,付属品が寿命を迎えたときに迅速に対応できるように助成金で費用を準備していた。付属品の消耗度合いは気候(温度や湿度)にも左右されるので当初の予想よりも寿命が延び,引き続き様子を見ながら交換を次年度まで待つことが適当であると判断したため,助成金の次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
超短パルス一体型モードロックチタンサファイアレーザーの付属品が寿命を迎えたら即座に交換する。また,実験の際に顕微測定用クライオスタットへ流すための液体窒素を随時購入する。装置のコンディションおよび実験の進行状況を見極めながら,翌年度の補助金と合わせて助成金を有効活用する。
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