2015 Fiscal Year Annual Research Report
ダイポール磁場配位を用いた電子陽電子プラズマの生成と基礎特性の解明
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25707043
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
齋藤 晴彦 東京大学, 新領域創成科学研究科, 客員共同研究員 (60415164)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ダイポール磁場 / 陽電子ビーム / 非中性プラズマ / 反物質プラズマ |
Outline of Annual Research Achievements |
電子陽電子プラズマを実験室に生成する上では,線源強度の限定される陽電子ビームの高効率の入射と,反物質プラズマの閉じ込めに適した磁気浮上型のコンパクトなダイポール磁場配位の開発が重要である.こうした観点から,小型ダイポール磁場装置を使用した陽電子実験を実施すると共に,磁気浮上システムの設計を進め浮上系と超伝導巻線の開発研究を行った. 陽電子入射実験では,ミュンヘン工科大学の大強度陽電子源NEPOMUCのopen beam portに,永久磁石を用いたダイポール磁場装置を設置した.前年度までの電子ビーム実験で得られた結果を元に装置に改良を施し,特に径方向電場について自由度の高い実験条件を選択可能とした.ビームラインから供給される陽電子は,磁力線と垂直方向に発生した定常電場により,ExBドリフトを発生させる事で閉じ込め領域へと入射を行う.電極の3次元形状を考慮した電場と磁場中で陽電子軌道のシミュレーションを行い,確実にドリフト入射が可能な形状の電場発生用の電極を装置内に導入した.これにより,NEPOMUCで定常的に発生する5eV低速陽電子を40%以上の効率でダイポール磁場内へと輸送する事に成功した.また,入射した陽電子の5ms程度の閉じ込めを観測した. これらの陽電子実験の成果と,コイル運転条件の検討に基づいて,磁気浮上装置のパラメータを決定し,実際に超伝導線材を使用したダイポール磁場コイル巻線を作成した.無冷却での運転可能時間や線材間の接合方法等を検討した結果,高温超伝導線材のBi-2223を選定し,核融合科学研究所の支援を受けて小型巻線を製作した.小型巻線を使用して,GM冷凍機による冷却試験を実施し,40Kまでの冷却と超伝導転移を確認した.長時間の運転を実現するためには巻線とコールドヘッド間の接触熱抵抗を改善する必要があり,冷却効率の向上を目指す試験を進めている段階にある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,ミュンヘン工科大学の研究用原子炉FRM-IIに申請した実験プロポーザル2件が採択され,比較的長期間の陽電子実験を実施する事が出来た.小型ダイポール磁場装置における陽電子実験の進展に伴い,NEPOMUC陽電子源のopen beam portを今年度より専有的に使用している.このため,前年度まで問題となったビームのチューニングや装置の改善等について作業性が大幅に改善され,効率的な陽電子実験の実施が可能となっている.こうした環境で実現された約40%の陽電子入射効率は,従来の直線型配位における実験と比較しても遜色ない値であり,今後の陽電子蓄積装置を用いた実験により,多数の陽電子をトロイダル配位へと蓄積可能になる事が期待される.こうした成果を得る上では,前年度までの電子ビームを使用した実験と,今年度の軌道シミュレーションが大きな役割を果たしており,計算と実験の両面から効果的な研究が進められていると言える.こうした結果に基いて,ミュンヘン工科大学では,来年度以降の陽電子実験のプロポーザルが新たに採択されており,ダイポール磁場における陽電子実験を継続して実施可能な状況にある. 超伝導コイル巻線の製作については,陽電子実験の日程変更に伴い当初遅れが生じたが,運転条件の検討に基づいたパラメータ選定を研究実施期間内に完了した. 適切な線材を使用して所定の性能の巻線を核融合科学研究所との共同研究として製作し,また共同研究を通して,今後の実験遂行のために必要とされる超伝導コイルの取り扱いに関する基本的知識を習得した.作成したコイル巻線は,陽電子実験を実施するドイツへの輸送を完了し,冷却及び励磁について実機試験を進める段階まで達成した.
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Strategy for Future Research Activity |
ミュンヘン工科大学のNEPOMUC陽電子実験施設におけるダイポール磁場配位を用いた実験研究及び,超伝導装置の開発研究を継続して実施する計画である. 陽電子入射実験について,これまでに得られた結果によれば,ビームの損失は主に永久磁石ケースと外周電極で発生しており,これらの電極電位の最適化により,さらなる入射効率の改善が見込まれる.粒子数の極めて限定される陽電子ビームを使用してプラズマを生成する上では,入射効率は極めて重要なパラメータであり,軌道シミュレーションを参照しながら取り組むべき課題であると考えられる.また,入射後の陽電子閉じ込め特性について,従来の電子実験と異なり,0.1ms以下の早い減衰時間と数ms以上の長い減衰時間が観測されており,陽電子が入射後に極めて安定な閉じ込め領域へと輸送された事を示唆する結果が得られている.粒子の空間分布と損失源に着目して,こうした閉じ込め特性を実験的に調べる事を予定している.繰り返し計測により消滅ガンマ線の時間区切り計測を行い,粒子数と減衰時間の双方を定量的に評価する事で,陽電子の閉じ込め特性を明らかにする計画である. 超伝導装置の開発については,安定浮上条件の解析を実際の系に適用して数値計算を進め,浮上のモックアップ装置を製作して磁気浮上系の試験を行う計画である.超伝導コイルに関しては,反物質プラズマ実験に供するコンパクトなコイル巻線の冷却方式として,従来のRT-1等とは異なり,熱接触による直接冷却が現実的であると判断している.一方,磁気浮上状態で運転するコイル巻線の効果的な冷却は容易な課題ではなく,液体窒素及びGM冷凍機を使用した実験を通して試行錯誤しながら最適な方法を模索する必要がある.冷却が可能になった段階で,機械的支持状態のコイル巻線を使用してビーム入射実験を行う計画を立てている.
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Causes of Carryover |
当初計画では,永久磁石を使用した装置において陽電子の入射特性に着目した研究を行い,陽電子の閉じ込め特性については,超伝導コイルを使用した装置において実施する計画であった.実験の結果,当初の見込みに反して,永久磁石を使用した装置において有意な閉じ込め時間が観測されたため,この現象についての研究を実施する事とし,結果として,超伝導コイルを使用した実験研究に関わる費用分を次年度に使用する事とした.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度までの研究に基いて,超伝導コイル巻線を用いたビーム入射を,数値計算と電子及び陽電子ビームを用いた実験により進める計画であり,そのための費用として使用する予定である.
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Research Products
(5 results)
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[Presentation] Progress toward the creation of magnetically confined pair-plasmas2016
Author(s)
H. Saitoh, U. Hergenhahn, H. Niemann, N. Paschkowski, T. Sunn Pedersen, J. Stanja, E. V. Stenson, M. R. Stoneking, C. Hugenschmidt, C. Piochacz, S. Vohburger, L. Schweikhard, J. R. Danielson, and C. M. Surko
Organizer
ドイツ物理学会春季大会
Place of Presentation
ハノーファー大学(ハノーファー,ドイツ)
Year and Date
2016-02-29 – 2016-03-04
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[Presentation] Recent status of the PAX and APEX projects toward the formation of electron-positron plasma2015
Author(s)
U. Hergenhahn, H. Niemann, N. Paschkowski, T. Sunn Pedersen, H. Saitoh, J. Stanja, E. V. Stenson, M. R. Stoneking, C. Hugenschmidt, C. Piochacz, S.Vohburger, G. H. Marx, L. Schweikhard, J. R. Danielson, and C. M. Surko
Organizer
25th International Toki Conference (ITC-25)
Place of Presentation
セラトピア土岐(岐阜県土岐市)
Year and Date
2015-11-03 – 2015-11-06
Int'l Joint Research