2015 Fiscal Year Annual Research Report
シリレンの単一ケイ素上に共存するルイス酸・塩基部位を利用したπ電子系改変反応
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25708004
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
石田 真太郎 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (90436080)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | シリレン / 環化付加 / 含ケイ素環状化合物 / 脱芳香族化 |
Outline of Annual Research Achievements |
[1]シリレンとピリジン類の熱的な脱芳香族化反応によって、これまで反応中間体として推定されていた脱芳香族化によるシラアジリジンやアザシレピンに対してシリレンが付加した二環式化合物などの高歪み化合物を安定な化合物として得ることに成功し、これらの化合物の構造及び分光学的データの取得を行った。シリレンとピリジン類の環化付加反応によるアザシレピン生成の置換基効果を調べたところ、電子求引基を持つピリジンの方がより速やかにシリレンと反応するという予想外の結果を得た。これはシリレンがルイス塩基としてピリジン環に求核的に反応する段階が律速である事を示唆している。これらの結果はシリレンとピリジンとの反応機構、特にアザシレピン生成の機構を理解する上で極めて重要な知見である。 [2] 上記反応の詳細を調べる途上、嵩高いシラノールが触媒するピリジンの2-位に対するシリレンのCH挿入反応を見出した。この反応は同じ基質のアザシレピン生成より速やかに進行する。本反応にはピリジンの配位によりシリレンの塩基性が高められ、シラノールと反応する段階があると考えられる。すなわちシリレンがルイス酸性、ルイス塩基性両方の性質を持っていることが反応の進行に関わっている。このようなシラノールが触媒するシリレンのピリジンへのCH挿入反応はこれまでほとんど例の無い型の反応であり、典型元素化合物を用いたCH結合の温和な官能基変換反応と捉えることができる。従ってこの反応機構を明確にすることを今後の検討課題の一つとした。 [3]シリレンとイソプレンの反応では、[1+2]環化付加体と[1+4]環化付加体の両方が得られた。[1+2]環化付加体を分離し、溶液中加熱したが、[1+4]環化付加体への環拡大反応は起こらなかった。この結果はイソプレンとの反応において、二種類の反応があることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はシリレンとピリジン類の反応を精査し、その脱芳香族反応の詳細を明らかにした。これまでの定説と異なる反応の傾向が分かり、また中間体である高歪み化合物の単離など、有用な知見が多数得られた。またシラノールが触媒する特異な反応を見出したことも特筆すべき点である。以上の様にシリレンとピリジン類の反応に関しては予想以上の著しい進展が見られた。 一方、上記結果の収集や解析に時間を取られたため、シリレンとイソプレンなどのジエンとの反応などについては初期検討に留まっており、こちらの進展は次年度の課題とした。以上の状況を総合的に判断し、進捗状況はおおむね順調に推移していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
[1] シリレンとピリジン類の熱的な脱芳香族化反応については、おおむね全体像を把握することが出来た。今後電子求引基を持つピリジンの方がより速やかにシリレンと反応するという予想外の結果について、理論計算等と併せて妥当な反応機構を考察し、論文等として取りまとめ、発表する。 [2]嵩高いシラノールが触媒するピリジンの2-位に対するシリレンのCH挿入反応について、反応機構を明らかにする必要がある。重水素ラベルした基質を用いた反応等を行い、ピリジンの2位の水素がどの元素上に移動しているかを調べる。併せて計算化学を用いた反応経路探索を行い、何故シラノールが触媒として作用するのかを明らかにする。さらにシラノールが触媒するこの反応の基質一般性について検討を行う。具体的には、ピリジン以外の含窒素芳香族化合物、チオフェンのようなヘテロ五員環化合物のシリル化が可能かどうかを調べる。 [3]これまでの知見を元に、ピリジンが連結したオリゴピリジンに対してシリレンを作用させて、オリゴ(アザシレピン)の合成を行い、その電子状態を各種分光学的および電気化学的手法により明らかにする。また、カップリング用の官能基を持つアザシレピンを合成し、そこからのポリ(アザシレピン)の合成に挑戦する。得られたポリ(アザシレピン)の酸化還元挙動を電気化学的測定および紫外可視吸収スペクトルから明らかにする。 [4]シリレンと不飽和炭化水素(イソプレン、ブタジエン)との反応を行い、生成物の構造決定を行う。計算化学による反応経路探索を行い、環化付加のモード([1+4]および[1+2])が何に依存しているのかを明確にする。さらにより複雑な不飽和炭化水素として、C60とシリレンの反応を検討する。
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Causes of Carryover |
本年度はシリレンとピリジン類との反応に集中して研究を行った。研究の予想以上の進展と予期しない知見が得られたためである。その際試薬類、不活性ガス、ガラス器具等を効率よく使用することが出来たため、消耗品の購入は当初の予定より少なかった。また、集中して検討したため、本来同時進行するはずだったシリレンと不飽和炭化水素との反応と解析は充分な検討が出来ず、こちらの課題に使用する消耗品の購入も少なくなった。以上の理由で次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は翌年度分として請求した助成金と併せて、上記理由で示した用途に適切に使用する。すなわち本来購入する予定であった原料となる各種不飽和炭化水素、不活性ガス、およびガラス器具等の物品と次年度購入予定の物品の購入などに使用する。また、成果発表および研究打ち合わせのための旅費、資料作成補助のための人件費、学会参加登録費等に使用する。
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