2015 Fiscal Year Annual Research Report
タンパク質輸送を制御する -場の環境変化を利用した膜による能動制御-
Project/Area Number |
25709010
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小宮 敦樹 東北大学, 流体科学研究所, 准教授 (60371142)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | タンパク質 / 物質移動 / 物質流束 / 機能性膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,マイクロチャネル群を有する膜を用いて,タンパク質の物質輸送制御技術を確立し,物質移動量と周囲環境との関連性を評価する.研究三年目の本年度は,研究計画書におけるフェーズ3-2「タンパク質拡散実験の実施」とフェーズ3-3「膜内物質透過量の評価法の確立と評価」に重点を置き,研究を進めた. 「タンパク質拡散実験の実施」では,タンパク質物質移動と相互作用を及ぼす周囲環境の検討を行い,平成26年度に引き続き,透過膜製作に向けた諸種条件下でのデザイン設計および束縛拡散の観察実験を行った.平成26年度に既に製作した透過膜を用いて,周囲環境一定条件の下でのタンパク質拡散実験を行った.前年度に複数回海外研究協力者と討論を行い,透過膜の仕様が決定し製作を行っている.この膜を用いて各周囲環境の条件に特化した膜を用いて実験を実施した.併せて,変動環境条件を与えた実験も並行して進めた.一般的なタンパク質の自由拡散では,100μmの移動に100秒オーダーの時間を要していることから,1オーダー長い1000秒オーダーで環境条件を変動させ,同一実験において拡散現象の変化を捉え環境の影響を調べた. 「膜内物質透過量の評価法の確立と評価」においては,上記で得られた諸種条件下での実験データを分析し,膜内物質透過量の評価法の検討を行った.周囲環境の条件を考慮した一元的な評価指針が必要となるため,得られた実験結果を多角的に判断し,周囲環境条件と物質透過量の相関を明らかにする指標を検討した.本研究においては,膜近傍の物質拡散係数と物質流束の経時変化を並行して評価することで,周囲環境の影響を評価していくこととし,その基準でデータ整理を行った.これにより膜のチャネル形状が束縛拡散に大きな影響を与えることが明らかとなった.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究三年目の本年度は,研究二年目に製作した透過膜を用いて,周囲環境一定条件及び周囲環境変動条件下でのタンパク質拡散場観察実験を行うことをあげており,並行して透過膜の製作も引き続き行った.膜製作に関しては昨年度の議論をもとに,海外研究協力者の協力でパラメトリックな条件下で行われたが,各透過膜を用いての拡散場観察実験が追いつかない等の問題が生じ,膜製作実験と観察実験の2本の実験が同調しないことが軽微な問題として挙げられた.研究遂行には問題ないものの,製作した透過膜の種類を減らし,一つの条件下での実験を繰り返し行う体制を整えることで,周囲環境一定条件下および変動条件下での精緻実験データの取得を行った.複数条件下での実験実施が必要であり,確度の高いデータの取得が一部完了していないことから,本年度の達成度としては,おおむね順調に進展しているという自己評価となった.しかしながら,実験条件は明確になっており,次年度以降に滞りなく実験を継続していくことが可能であり,十分な研究成果を上げることができたと判断できる.研究全体の進捗状況としては,本年度までの研究成果は研究計画どおりであるが,次年度以降は実験数がさらに増えていくことが予想されるため,加速した研究展開をしなければならないと感じられる.かつ,来年度は最終年度であるため,研究総括を視野に入れた研究を進めていく必要がある.
|
Strategy for Future Research Activity |
研究の遂行状況が本年度まで概ね計画どおりに進展していることから,今後はデータの拡充を図る.本年度行った観察実験の条件について更に複数回実験を実施し,確度の高い解析可能な実験データの取得を行う.これらのデータを用いて,本年度検討した周囲環境の影響を考慮した物質透過量の一元的評価法について再検討し,データの整理を行うとともにタンパク質物質移動の能動制御可能性について検討を進めていく.更に研究最終年度の具体的な目標となっている「実験条件を生体内環境に限定し,in vivo におけるタンパク質輸送制御の可能性を評価するとともに,研究の総括を行う.」については,周囲環境条件として定義してきた温度条件やpH 条件等をin vivo 条件に限定した状態でのタンパク質物質移動能動制御の可能性を模索していく.本研究で提案するタンパク質物質拡散能動制御がin vivo条件下でも可能かどうかの判断材料とする実験データの取得を目指す.これらについては,工学だけの知見では足りないので,議論を医工学系の研究協力者とともに行う.実験実施数が相当数になることは容易に想像できるので,複数の実験実施員を雇用し実験を進めていく. 更に次年度は研究期間の最終年度であるため,得られた研究成果の総括を行うとともに,国内外の研究会・学会にて発表を行う.なお,研究発表は熱工学分野にとどまらず,医工学分野等においても本研究課題の成果を公表していく.研究成果の発表については,本年度の実験結果から多くの知見が得られたにも関わらず,それを纏め上げる時間がなく,成果発表は結果として可視化技術に関する1編の学術論文と学会発表および基調講演のみとなっており,学術雑誌への投稿ができていなかった.この点についても次年度に集中して本年度の研究成果を纏め上げ,論文発表を推し進めていく.
|
Causes of Carryover |
本年度までにタンパク質拡散場の観察実験に必要な光学部品は揃ったが,実験の実施回数が当初想定数よりも少なく,一部の実験を次年度に実施していくこととなったため,実験消耗品を含む物品費および謝金が次年度使用額として生じることとなった.主として試薬およびのセル等の消耗品購入となるが,あわせて実験実施員への謝金も必要となってくる.また,上述のように,本年度の研究成果をまとめた研究発表活動も行うこととなり,国際会議での発表および論文投稿費等も次年度使用額として生じている.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
上述のような理由から,物品費を主に実験消耗品として使用し実験を進めていく.また,成果発表として国内外の学術研究会に参加していく.
|