2015 Fiscal Year Annual Research Report
ナノ界面の電子状態制御による熱エネルギー伝達機構の分子論的解析
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25709012
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
石元 孝佳 九州大学, 稲盛フロンティア研究センター, 特任助教 (50543435)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ナノ界面 / 電子状態 / 濡れ性 / カーボン / エネルギー伝達 / 水素結合 |
Outline of Annual Research Achievements |
ナノスケールで初めて発現する界面特有の濡れ性は電子物性変化に由来するため、電子状態理論に立脚したアプローチが必要である。本研究ではナノ界面に対する濡れ性と熱エネルギー伝達機構を分子レベルで解明するために、平成27年度は以下の3点について取り組んだ。 A. 新規計算手法の開発に向けて、本研究ではnon-BO量子論に基づく計算プログラムを開発に取り組んだ。計算プログラムとして量子化学計算用GAMESSを取り上げ、non-BO量子論を実装した。特に本年度は非制限Hartree-Fock(UHF)法によるエネルギー計算とエネルギー微分の実装に取り組んだ。これまでは電子数が偶数で多重度が1の場合の制限付Hatree-Fock(RHF)のみであったが本手法によりラジカルや高多重度系といった複雑な電子状態計算が可能となった。さらに計算量が増加すると以上終了する問題を解決し、大規模計算を実行可能なプログラム環境を整えることができた。 B. グラフェン上での水の安定構造や配向に関する基礎的な知見を得るために基本的な芳香族化合物に対する超高分解能レーザー分光測定結果に基づき高精度電子状態計算を行った。実験と計算結果を比較し問題の抽出を行った。 C. 本研究で取り扱うナノ液滴構造を構築するために、1,2,3 nmサイズの水滴構造の構造最適化計算を行った。さらに最適化した水のナノ液滴の半球モデルをグラフェン上に配置したモデル構造を作成した。界面での相互作用が濡れ性へ与える影響を分子スケールで解析するために、不均一水素結合構造と分子振動の関係性を解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ナノ界面に対する濡れ性と熱エネルギー伝達機構を分子レベルで解明するために、本研究では、A. non-BOダイナミクス手法の開発、B. ナノ界面実構造の高精度測定、C. ナノ界面の電子状態解析、の課題に取り組んでいる。平成27年度、Aについては計算プログラムの修正を行い大規模計算に向けた実装に成功した。また複雑な電子状態計算にも対応可能なUHF計算プログラムへの拡張を行った。Bについてはベンゼンについての測定と計算結果の比較から問題の抽出に成功した。ベンゼンと水分子の詳細な実験データと計算結果を比較することで、界面構造の解析に役立てていく。Cについてはナノ液滴の構造的特徴を抽出することに成功し、当初の予想よりも進捗が見られた。グラフェンと水のナノ液滴のモデル構造を作成し、電子状態計算にも成功した。 以上の観点から総合的にみると、研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
ナノ界面に対する濡れ性と熱エネルギー伝達機構を分子レベルで解明するために、本研究では、A.非平衡non-BOダイナミクス手法の開発、B.ナノ界面実構造の高精度測定、C.ナノ界面の電子状態解析に基づく新規ナノ界面制御技術の提案、の課題に取り組んでいる。今後の研究の推進方策として具体的なアプローチを以下に示す。 A.平成27年度に取り組んだCの応用計算の段階で、ラジカルや種々のイオン種の計算が必要であるが現在の計算プログラムにはに制約があるため、非制限系の電子状態理論の実装に取り組む必要があった。今年度UHFレベルでのエネルギーおよびエネルギー微分の計算プログラムは実装したが、高精度計算に向けては密度汎関数理論(DFT)に対応する必要があるため、DFT実装に向けたプログラム開発に取り組む B.超高分解能レーザー分光測定で得られたベンゼンと水分子の詳細な構造データと計算結果を比較することで、界面構造を解析する。 C.グラフェンモデル構造と水クラスターを用いて、2.5nmサイズの水のナノ液滴を4nm2のグラフェンモデル上に配置したモデル構造を作成する。構造最適化計算の後、ナノ液滴モデルの内部とグラフェン-水および気液界面近傍で形成される均一、不均一水素結合ネットワーク構造を解析し、グラフェンの濡れ性と水素結合ネットワークの関係性を明らかにする。またイオン性化学種周辺の水の振動数を解析することでエネルギー伝達の促進に関連するパラメータの抽出を行う。実験ではグラフェンの層の数を変化させることで濡れ性が変化していることから、グラフェンモデルの層数を2,3,5と増やした場合の電子状態計算を行う。これらの結果から電子状態変化による濡れ性の制御という新しい設計指針の提案を行う。
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Causes of Carryover |
平成27年度は前年度の未使用額を利用して開発手法の機能拡張のためのプログラム実装を外注した結果、ラジカルや多重度など複雑な電子状態の計算が可能となった。当初は開発プログラムの実装に関連した人件費としての利用を想定していたが、プログラムの実装が予定よりも大きな進捗があったことと、次年度にプログラム開発の外注費として利用することでより効率的なプログラム開発、応用計算への取り組みが可能であると判断したため次年度使用額が生じた。次年度使用額が生じることによる研究の進展への影響はなく、むしろこれにより研究の進捗が加速されることが期待される。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額となった分については、プログラム開発および応用計算に向けた外注費として利用する。また研究成果発表のための旅費としても活用する。
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Research Products
(2 results)