2013 Fiscal Year Annual Research Report
半導体光触媒ナノ構造と水素透過膜の統合による光誘起高純度水素生成
Project/Area Number |
25709024
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (A)
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
野田 啓 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (30372569)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 半導体光触媒 / ナノ構造 / 水素発生 |
Research Abstract |
光動作型の水素生成・分離一体型薄膜(水素生成・分離膜)を用いた光誘起高純度水素発生に関する研究を実施した。この水素生成・分離膜は「燃料改質部」である半導体光触媒ナノ構造と「水素分離部」である水素透過性金属の二層構造から構成される。 まず、燃料改質部にTi箔の陽極酸化により作製したTiO2ナノチューブアレイ(TNA)、水素分離部にパラジウムの無電解めっきにより作製したパラジウムPd膜を採用した、厚さ数十μm のTNA/Pd二層構造の作製に成功した。またメタノールを燃料源として、紫外線照射のON/OFFに応答する形で高純度水素が発生するのを観測し、光動作型の水素生成・分離膜として機能する事を示した。更に、Pdめっき膜の薄膜化を推し進め、厚さ5μmのPd膜でもピンホールのないTNA/Pd二層構造の作製に至った。これまでの研究ではPdスパッタ膜を用いていたが、本年度の成果により無電解めっき膜の適用が可能となり、水素生成・分離膜の作製コストの低減が期待できる。 また、二段階陽極酸化法を用いて、TNAから個々のTiO2ナノチューブ(TNT)に分離し、誘電配向による単一のTNTの電極間架橋と電子移動度測定を実施した。その結果、アナタ―ゼ型やルチル型といった結晶型の違いにより、異なる電子移動度を有することや、単一のTNTにおける電子移動度はTiO2多結晶膜とほぼ同程度であることが示された。TNTのキャリア移動度は、光触媒活性に密接に関わるパラメータであり、燃料改質部を構成する光触媒ナノ構造の設計及び特性向上を図る上で有用な材料評価手法であると言える。 以上のように、光動作型の水素・分離膜を用いた高純度水素生成の高効率化に向けた有益な成果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、平成25年度はTNA等に代表される半導体ナノ構造の素材、及びその形状(ナノ構造体の長さ、内径、外径、ナノ構造体同士の間隔など)の探索や、水素透過部の材料探索/成膜法の開発が主な課題であった。実際にTNA/Pd二層膜におけるPd膜の形成法として無電解めっき法の適用に成功し、結果として膜厚 5μm のPdでピンホールのない良好な光触媒/水素透過膜の二層構造作製に至った点、また、半導体ナノ構造の光触媒活性に密接に関わる単一ナノチューブのキャリア移動度の評価法を新たに提示し、実際に評価を行い、単一チューブの電気伝導に関する知見が得られた点については、概ね研究計画に沿った成果であると言える。 また、平成26年度に行う予定である原子間力顕微鏡を用いた光触媒材料評価に向けて、今年度に装置を購入し、実験の準備を進めている。更に、より実用条件を意識した水素生成・分離特性の評価を実施するための測定装置の改良も行っている。 これらの事由により、本研究課題は概ね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の成果を基にして、水素生成・分離膜に用いる材料開発を更に進めていく。 一つは可視光応答性を有する半導体材料(例、酸化鉄(Fe2O3)やリン酸銀(Ag3PO4)など)を用いた光触媒ナノ構造(ナノ多孔膜、ナノ粒子膜、ナノチューブアレイ等)の作製と水素生成・分離膜への応用を試みる。また、ソーラーシミュレーターを用いた疑似太陽光照射下での光触媒活性評価を実施する予定である。 それと並行して、これまで用いてきた四重極質量分析計による高真空下での水素ガス検出系に加え、ガスクロマトグラフを取り入れた大気圧に近い条件下での水素生成・分離特性の評価系を新たに構築する。これにより、実用条件を意識した半導体光触媒ナノ構造/水素分離膜の構造及び動作条件の最適化を推し進める。 一方、走査プローブ技術の一つであるケルビンプローブ原子間力顕微鏡(KPFM)を用いた光照射下での半導体光触媒の表面、および光触媒/水素透過性金属との界面におけるマイクロ・ナノスケール表面電位測定を実施する。大気下や高真空下で微量の気相アルコールや水を意図的に導入した系で、光照射下でのガス種/分圧と表面電位との相関を調べることで、水素生成・分離機構の解明を試み、本研究課題の対象である水素生成・分離膜の設計指針の確立につながる知見を得る。 最終的には、実用化への指標となる水素発生量(約1 L/min.)を確保することを目標とし、水素生成・分離膜を固体高分子形燃料電池等に組み込むことで、燃料源としての実証実験を行いたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度において、原子間力顕微鏡システムを購入した結果、予算残額が少なくなってしまい、当該研究課題の遂行に必要な備品の購入を次年度に延期せざるを得なくなったことが挙げられる。 また、光触媒ナノ構造や水素透過膜用の材料の使用量が、研究計画当初の想定よりも少量で間に合ったため、材料費の支出が抑えられたことも理由として挙げられる。 まず備品として、原子間力顕微鏡を用いた表面電位観察を行うための表面電位測定機能や、太陽光照射時の光触媒水素生成評価を行うためのソーラーシミュレーターを購入する予定である。消耗品費としては、半導体光触媒作製に必要な試薬類、真空機器メンテナンス用の部品、原子間力顕微鏡測定用カンチレバーなど、頻繁に使用される物品を、研究計画に合わせて購入する。旅費については、国内及び国外での各学会で1、2回の発表を行う予定で、その費用を考慮した。 外国旅費については、米国または欧州で開催される学会に一度、参加する際に必要な渡航費と滞在費を概算している。また、研究の進行状況によって、他の研究グループの研究者または技術者による実験の補助を必要とする場合を想定して、研究補助費(謝金)を計上している。 最後に、本研究計画で得られる成果を発表する際の学会参加費や論文投稿料については、その他の費用項目で計上した。
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