2015 Fiscal Year Annual Research Report
地域住民の包括的な生活保障におけるモビリティと生活支援サービスの連携に関する研究
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25709043
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
吉田 樹 福島大学, 経済経営学類, 准教授 (60457819)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | モビリティ / 生活支援サービス / 路線バス / 移動販売 / 活動評価インベントリ |
Outline of Annual Research Achievements |
研究3年目となる平成27年度は、以下の2点を中心に検討した。 第一に、東京電力福島第一原子力発電所事故(以下、原発事故)に伴う避難指示区域を市域の一部に抱える福島県南相馬市を対象に、3,100世帯(有効回答者数1,599人)のアンケート調査を行った。当該調査では、原発事故以前と比較した交通行動の変化に加え、食料品の買物目的に焦点を絞り、目的地や利用交通手段、調達方法の変化について質問した。一方、同様の設問構成に基づくアンケート調査を山形市でも実施し、原発事故による活動変化の特徴について明らかにした。その結果、高齢化率が急激に上昇した南相馬市では「外出頻度が減少した」という回答が山形市と比較して高い割合を占めており、目的地となる施設が復旧していないことや人々の集う場がないこと、あるいは「外出がおっくうになった」とする主観を抱いていることが外出頻度を低下される傾向に繋がっていることが示された。また、居住形態(従前の住居、応急仮設住宅、借り上げ住宅、市内での転居の4類型)によっても「外出がおっくうになった」と感じる割合に違いが見られた。 第二に、福島県内で移動販売を手掛ける小売店へのヒアリング調査を行い、移動販売のマーケットや供給サイドの課題について整理した。平成26年度は、商店が自らマネジメント手法を検討し、自社で移動販売事業を手掛ける小売店を対象としたが、平成27年度は、全国に移動販売のマネジメントを展開する企業と連携した小売店の取り組みを重点的に調査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度までに、南相馬市民および会津若松市内に避難する大熊町民を対象としたアンケート調査の実施を終え、原発事故前と比較した活動機会や交通行動の変化を計測した。調査票では、平成26年度までに検討した「活動評価インベントリ」を用いて、回答者個々の活動機会を計測しているが、原発事故による放射線被害を直接に受けていない山形市においても同様の設問で調査を実施しており、原発事故を端緒とした活動機会の変化に関して、その特徴を明らかにすることができた。一方、生活支援サービスの供給サイドに関する分析も進捗しており、平成27年度は、全国展開する移動販売のマネジメント方式を取り入れた小売店を調査できたことで、運営方式の異なる移動販売の形態を網羅的に調査することができた。 以上の理由から、本研究の進捗はおおむね順調であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、研究の最終年度にあたることから、以下の三点について引き続き分析を進めるとともに、全体の総括を行う。 第一に、原発事故による避難指示が継続している福島県大熊町(会津若松市内の避難者を対象)と南相馬市民を対象に実施した「活動評価インベントリ」に基づくアンケート調査の分析を進め、避難生活による物やサービスの調達可能性の低下について明らかにする。前年度は、原発事故による放射線被害を直接に受けなかった自治体においても「活動評価インベントリ」に基づく調査を実施できたことから、原発事故による特殊性を明確にすることを目指す。 第二に、避難指示の解除が予定され、新たな公共交通サービスの提供が予定される福島県南相馬市小高区を対象に、「活動評価インベントリ」に基づくアンケート調査を行い、モビリティや生活支援サービスの提供によるアクセシビリティ(活動機会)改善の可能性についてシミュレートを行う。 第三に、これまでに行った食料品や日用品を扱う移動販売を提供する商店等へのヒアリング調査結果を取りまとめるとともに、新たに移動販売が提供されるようになった地区の高齢者を対象に買物行動の変化を計測する。具体的には、「活動評価インベントリ」に基づくアンケート調査の実施地区を増やすことに加え、移動販売のサービス開始前後のモビリティ(バス、タクシー等)の利用状況の変化を公共交通事業者の協力を得て計測することを予定している。
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Causes of Carryover |
国際会議および学会論文集に投稿する英文論文の校閲等の発生が平成28年度になったことから、次年度使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度未使用額は、英文校閲等に充当する予定であり、平成28年度の前半で使用する計画である。
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