2015 Fiscal Year Annual Research Report
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25709064
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
堤 祐介 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 准教授 (60447498)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ジルコニウム / 腐食 / 生体材料 / 耐食性 / 孔食 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、新たな生体用金属材料としての応用が期待されるジルコニウムについて、これまでほとんど明らかにされてこなかった、塩化物イオン環境における局部腐食の発生機構を明らかにすることを目的としている。 研究にあたっては、従来のような広域な試料表面ではなく、マイクロメートルオーダーのごく微小な領域の試料表面のみが電解質溶液と接触し、欠陥部の有無およびその種類を任意に選択可能な電気化学測定装置と顕微鏡を融合した測定システムを用いる必要がある。このシステムは、類似した原理の装置に関する研究がいくつか報告されている一方、製品として市販化されていない。研究計画の3年目となる平成27年度は、昨年度までに引き続き、研究協力者の所属する東北大学工学部において、微小領域における電気化学測定システムを用いた測定を繰り返し、ジルコニウムの局部腐食を誘発する因子の解明に取り組んだ。 今年度は試料表面に存在する多数の介在物を明確に露出させるため、グロー放電による前処理を行った。この結果、Zr表面に多数存在する鉄を含む介在物の鉄の濃度は、これまで最大で10%程度と思われていたが、30%に近い濃度を持つものも存在することが明らかとなった。微小領域電気化学測定により、約2.0V(Ag/AgCl電極基準)での孔食発生の起点となるのは、この鉄を含む介在物の中でも特異的にスズ濃度の高いものが優先されることを明らかにした。 一方、ジルコニウムの表面にはこれらの介在物よりさらに腐食発生において致命的な因子が非常に低確率ながらも存在することが示唆されており、この因子を完全に解明することを次年度における課題となることが認識された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究協力者との連携により、本研究において重要となっている微小領域における電気化学測定は問題なく実施できる状態となっている。本年度は実際にこの装置を用いることで、孔食発生の起点となる因子の一つを明らかにすることができた。最終目標であるジルコニウムの腐食因子の完全な解明には、未だ解明すべき点が残されているが、研究計画の一部は既に達成された状況であり、順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
グロー放電による前処理の有効性が確認されたため、今後は介在物の明確化と元素分析と組み合わせた試料準備を行い、ジルコニウムの腐食の支配的因子となっている欠陥の存在を明らかにすることを目指す。熱処理や組成の調整、および試料の圧延方向の影響を詳細に評価し、微小領域から通常領域、さらに拡大した領域における耐食性評価の結果を比較することで、欠陥因子ごとの存在率を定量的に評価する。結果を総合的に解析することで、ジルコニウムの生体材料としての安全性、およびこれを改善するための手法を検討し、提案する。
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Causes of Carryover |
金属組織と介在物を明確に露出するため、ジルコニウム合金表面を鏡面研磨する必要がある。昨年度は研磨効率を向上させるため、強制的な回転機能を持つ自動研磨装置を導入する予定であったが、現在保有する半自動式研磨装置により研磨およびグロー放電により前処理の有効性が確認されたため、この装置の導入が不要となり、次年度使用額として計上することとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上述の通り、昨年度は自動研磨装置の購入の必要が不要となった代わりに、今年度は頻繁にグロー放電により前処理を行う必要があり、業者への依頼による費用を計上しなければならない、また、数十平方センチメートルを超える広域な試料表面による測定では、多くのジルコニウム原料が必要であり、経済的な観点から、測定後の試料を再び溶解することで再利用することを予定している。このため、数キログラム程度の溶解と、熱間鍛造やスウェージ加工、熱処理などのプロセスを業者に依頼する予算が必要となる。 本年度に生じた次年度使用額は、上記2点、および、老朽化して交換が必要となった電極等の消耗品の購入費として有効に流用することを計画している。
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