2013 Fiscal Year Annual Research Report
トマト花弁内におけるエステル化カロテノイド蓄積の分子基盤の解明
Project/Area Number |
25712004
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (A)
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
有泉 亨 筑波大学, 生命環境系, 助教 (70575381)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | カロテノイド / トマト / 変異体 |
Research Abstract |
申請者は、エステル化カロテノイドの蓄積に欠陥があり、花弁のクロモプラスト内の顆粒形成が減少した2系統のトマト変異体pale yellow petal 1(pyp1)、pyp2を解析している。両変異体の原因遺伝子は既に同定済みであり、PYP1遺伝子はカロテノイドのエステル化を触媒する酵素で、PYP2遺伝子はエステル化に関わる遺伝子の発現を制御する機能があると推測した。また、エステル化カロテノイドはクロモプラスト内の顆粒形成に必要と推測した。本研究ではこれら推測を実証し、トマト花弁内におけるエステル化カロテノイド蓄積の分子基盤を解明することを目的とする。本研究ではトマト花弁内のエステル化カロテノイド蓄積の分子基盤を解明することを目的として次の5課題を実施する。①PYP1とPYP2をそれぞれトマト内で過剰発現させた時のエステル化カロテノイド組成・総含量の変化をHPLCで調査する。②PYP1によるエステル化反応の基質となる脂肪酸をガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)で調査する。③PYP1による脂肪酸エステル化カロテノイド生成能力をin vitroの系で調査する。④Y2H法で同定された因子とPYP2のトマト細胞内での結合能力をBiFC法で調査して、この因子の組換え体を作出し、エステル化カロテノイド合成への寄与を調査する。⑤クロモプラスト内の顆粒を単離して、顆粒内にエステル化カロテノイドが存在する可能性をHPLCで調査する。これまでに申請者は、PYP1遺伝子の過剰発現体を多数作出し、カロテノイド測定を実施した。エステル化カロテノイド蓄積が回復した形質転換体においてはT2種子を得る事ができた。一方、NMR等を用いた化学的解析により、トマトの花弁内に存在するエステル化カロテノイドを構成するカロテノイドの種類、エステル結合した脂肪酸の種類を同定することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度では以下の研究を実施した。 (1)PYP1遺伝子の全長を、遺伝子発現を恒常的に誘導する35Sプロモーターに連結したコンストラクトを作成して、矮性トマト品種マイクロトムに導入した。その結果、35系統の組換え体を得ることができた。そのうち、27系統で花弁の色が回復した。うち、17系統においてサザンブロット分析を行ない、コンストラクトがシングルコピー導入された3系統を選抜した。HPLC分析に結果、これらの組換え体ではエステル化されたカロテノイドが蓄積していた事がわかった。一方、PYP2遺伝子の過剰発現体を得る事ができなかった。おそらく、PYP2遺伝子の全長が長く、ベクターの構築が難しかった点に起因していると思われる。一方、PYP2遺伝子の新たな変異体pyp2-3を筑波大学が保有する大規模変異体集団より得ることができた。原因遺伝子の変異部位は特定できていないが、pyp2-1、pyp2-2とのアレリズムテストより、pyp2-3の原因遺伝子も同一であることを明らかにした。 (2)PYP1によるエステル化反応の基質となる脂肪酸を決定するために、WTの花弁内に存在するエステル化カロテノイド化合物の中で、HPLCのピークが高い2種類のエステル化ネオキサンチンを抽出し、抽出化合物をけん化処理して得られる分解物質量分析装置(ESI-MS)および核磁気共鳴(NMR)で解析して、エステル化ネオキサンチンの脂肪酸部位を同定した。 以上、ほぼ計画の予定通りの研究が完了した。
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Strategy for Future Research Activity |
<平成26年度> (1)前年度に作出した形質転換体の後代(T2世代の導入遺伝子ホモ系統)の花弁内のカロテノイド組成・総含量をHPLCで分析する。また、T2世代での表現型(花弁の着色と顆粒形成)を調査する。(2)PYP1のカロテノイド(ネオキサンチン)へのエステル化触媒能力を明らかにするために、PYP1とHisタグの融合タンパク質 (PYP1-His)を大腸菌(BL21 DE3株)内で発現・精製させる。次に、PYP1-Hisを基質である各種脂肪酸とネオキサンチンの存在下でin vitroでの脂肪酸のエステル化誘導実験を行なう。(3)PYP2遺伝子の過剰発現体の代わりに、PYP2遺伝子の発現を抑制するRNAi用のベクターを作成して、マイクロトムに導入する。組換え体の花弁の色が変化するかを調査する。 <平成27年度> PYP2と相互作用する4つの因子がエステル化カロテノイド合成に関わっているのかを調査するために、まずトマトプロトプラスト内でPYP2と結合するかをBiFC (bi-molecular fluorescent complementation)法で調査する。次に、この実験で結合能力が認められた因子においては、過剰発現あるいは発現抑制したトマト形質転換体を作出して、形質転換体のエステル化カロテノイド組成・総含量と花弁の色彩、あるいは顆粒形成との関わりを調査する。 <平成28年度> 花弁のクロモプラスト内において、エステル化カロテノイド合成が顆粒形成に重要であることを証明するために、WT、pyp1、pyp2、pyp1 pyp2変異体、あるいは得られた形質転換体の花弁よりこの顆粒を単離して、HPLCでエステル化カロテノイド組成・総含量を測定する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
人件費の雇用が進まなかった点、学会発表が無かった点、備品の購入がなされなかった点が主な理由である。雇用については組換え実験に集中して従事できる適任者を見つけることができなかった。学会発表については論文発表が遅れたため、発表を見送った。備品の購入においては、共同研究者が保有する機器を利用して実施した。 来年度は、多数の組換え体を作出、および解析する必要があるため、実験補助および非常勤研究員を雇用して研究の強化に充てる。繰り越し金の多くはこの経費に充てる予定である。また、現在論文を執筆しているため、その印刷費に用いる。また、論文投稿後、学会発表等も精力的に実施する。
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