2013 Fiscal Year Annual Research Report
タンパク質の規則正しい凝集がたどる運命と生体の恒常性破綻
Project/Area Number |
25713012
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (A)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山崎 正幸 京都大学, 白眉センター, 准教授 (80397562)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 生体分子医学 / タンパク質凝集性疾患 |
Research Abstract |
申請者は近年、アンチトリプシン欠損症という欧米で多くの患者を抱える疾患の基礎研究に従事した。意外な発見は、その原因となるアンチトリプシンの凝集体が、誤って隣の分子と折りたたむことでその構造を完成するという、全く新しい凝集体形成の概念を発見した事であった。本研究は、このようなタンパク質の規則正しい凝集体の形成が生体で発生した場合、それらが細胞内・細胞外でどのような運命をたどるか、またどのように生体の恒常性破綻は導かれるかについて、多角的に検証していくものである。 初年度は、アンチトリプシンの凝集体形成メカニズムの構造レベルでの詳細解明と、それらに対する細胞内応答の検討を中心に行った。予期せぬ発見は、アンチトリプシンの凝集体は様々なメカニズムで形成する事に加え、それらが時間の経過により巧みに構造を変えることである。研究を始めた当初は、凝集体形成のメカニズムのみに依存して細胞内応答が変化する(細胞内での分解、蓄積、細胞外への分泌など)と予測していたが、これに時間という新しいベクトルが加えることで、当初は検出が困難であったアンチトリプシンの凝集体に対する細胞内応答の違いが明瞭になった。 また、凝集体の形成メカニズムと時間、この2ベクトルによるアンチトリプシン凝集体構造の変化を構造レベルで追跡するための方法を検討した。結果、凝集体構造で露出している部分をプロテアーゼへの感受性を指標として同定する、質量解析を用いた簡便な方法を開発できたことは今後の研究推進に大いに役に立つ。タンパク質が持つ潜在的な細胞内毒性に関して構造レベルで重要な知見を抽出する事を狙っている。 さらに、年度の終盤には、老化したマウスの血液を用いた解析に着手し、予備的データではあるものの、非常に興味深い結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者は先行研究において、アンチトリプシンは複数のメカニズムで凝集するという現象をすでに捉えており、酵母システムを用いた実験では特定の凝集体構造のみが細胞内に蓄積するという、細胞による凝集体の選別が示唆されていた。そこで、本研究において、ほ乳類細胞を用いてその詳細を明らかにしようとしたが、当初、予想に反して実に困難であった。その原因である、アンチトリプシン凝集体構造の時間的変化を見いだすまでの時間が、25年度に挙げた研究計画の進行をやや遅れたものとした。現在は、凝集体の持つ様々な特性を個々に抽出しできる状態にある。これにより25年度の計画は、26年度の計画と合わせて今後次々と達成していく予定である。また様々な凝集体の構造特性を精密に分析することができるプロテアーゼ切断と質量解析法を絡めた新たな方法を検討できたことも今後のスムーズな進展に価値を持つ。当初26年度の計画に含めていた、老化した、または老化もでるの動物からの凝集体スクリーニングにすでに着手し、その予備的データを得ている事もあり、25年度研究計画の達成は若干遅れているが、3年間の研究全体として考えた場合、おおむね順調に進展していると自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度は本研究を潤滑に推進する為の手法の確立、予備的データの蓄積を効率的に行うことができたため、本年度はそれらを元に一つ一つ確実にかつスピーディーに研究計画を遂行していくことができる段階にある。新たな実験補助の雇用、本大学に置ける質量解析・プロテオーム解析システムの活用、老化モデルマウスを研究されている信州大学樋口京一教授との連携など、研究体勢をうまく構築しながら諸問題の解決にあたりたい。アンチトリプシンの凝集体系メカニズムの詳細はそれだけで速やかに論文で報告する予定である。また、アンチトリプシンの凝集体形成に対する細胞内応答、そして老化モデル動物における凝集体や異常タンパク質の同定は今年度に行うが、それらの成果は27年度に計画している老化をより簡便に特定する方法の開発を含めて、一つの大きな成果として報告する事を考えている。後者は実用性も高く、非常なインパクトを期待している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当研究は、初年度は試験管内で行える実験、細胞を用いた実験が中心に計画されているが、次年度から動物の血液成分などに注目しプロテオーム解析を視野に入れている為、必要経費の増加が予想された。そこで年度頭に実験補助として学生バイト2名を雇用する事で人件費の節約に心がけた。また年間を通じて研究設備を様々に整えるために、研究費を予定よりも物品費に大幅に割く必要があったが、結果として約657,000円を次年度に繰り越した。 初年度にておおまかな設備投資は終えたので、新たに請求した研究費(4,000,000円)は繰り越した657,000円と加えて、物品費(2,056,960円)旅費(500,000円)人件費(1,800,000円)その他(300,000円)の使用内訳を予定している。初年度の人件費と比較するとさらに1000,000円強の使用が見込めるので、さらに実験補助を雇用し円滑な研究計画の実行に役立てたい。
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