2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
25713044
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (A)
|
Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
天野 大樹 独立行政法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 基礎科学特別研究員 (00591950)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 分界条床核 / 内側視索前野 / 養育行動 |
Research Abstract |
交尾未経験の雄マウスの場合、提示された仔マウスに対して喰殺をはじめとする攻撃行動を示すが、雌マウスとの交尾および同居期間を経て父親となると仔マウスに対し養育行動を示す。この行動様式変化を支える神経回路およびその可塑的変化の機構はこれまで明らかになっていない。仔マウス暴露依存的な最初期遺伝子cFosの発現パターンは交尾未経験マウスと父親マウスとで異なる。交尾未経験の雄マウス背外側分界条床核ではcFosの発現細胞数が有意に増加する一方で、父親マウスでは仔マウス非暴露群と比べ差が認められない (Tachikawa, JNS, 2013)。そこで交尾未経験の雄マウスと父親マウス由来の背外側分界条床核を含む脳スライス標本を作製し、それぞれホールセルパッチクランプ法により神経伝達強度の比較を行った。その結果、父親マウスで抑制性シナプス後電位の振幅の有意な増大が認められた。この神経可塑的変化は内側視索前野をNMDA微小注入によって破壊することで対照群と同レベルに戻った。さらにチャネルロドプシン遺伝子を組み込んだAAVベクターを用いて内側視索前野から背外側分界条床核へ直接的なシナプス入力がイオンチャネル共役型受容体を介して背外側分界条床核神経細胞を制御するか検討した。しかしこの仮説を支持する結果は得られなかった。 性成熟後に去勢した交尾未経験のC57BL/6J系マウスの養育行動を検討した結果、仔暴露初日には約30%のマウスが養育行動を示したが、4日目には約90%が養育行動を示した。養育行動を示した去勢マウスでは背外側分界条床核細胞における抑制性シナプス後電位の振幅が有意に増大していた。 以上の結果から、背外側分界条床核では父親となる過程と去勢との間で共通して抑制性シナプス入力強度が増大する機構が存在することが示唆された。父性発現後に喰殺行動が抑制される機構の一つと考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主要な目的の一つである背外側分界条床核における経験依存的な神経可塑的変化をすでに複数のマウスモデルで明らかにしている。その機構についてすでに内側視索前野中心部の関与という点で神経回路機構の一端を明らかにしている。またAAVウイルスベクターと光遺伝学的・薬理学的手法を用いて、特定神経核を人為的に刺激または抑制出来る実験系を確立した。これにより背外側分界条床核が養育関連行動に対して持つ生物学的意義や神経可塑的変化の機構解明について詳細な検討が進行中である。以上の点から本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
背外側分界条床核に入力する抑制性シナプス電位が経験依存的可塑的変化を示すことから、その機構について引き続き検証を行う。背外側分界条床核神経細胞に発現するGタンパク質共役型受容体を手掛かりとして、抑制性シナプス電位を変化させることが出来る神経伝達物質を探索する。また背外側分界条床核に入力するGABA作動性神経核の同定およびそのシナプス刺激依存的な行動変化を検討することが特に重要となる。現在、GABA神経細胞に蛍光タンパク質を発現する遺伝子改変マウスのうち、蛍光タンパク質と養育関連行動後に発現する最初期遺伝子タンパク質とが共局在するものを探索中であり、平成26年度も引き続き検討する。その後、トレーサー(FluoroGoldまたは狂犬病ウイルス)を用いて背外側分界条床核への入力元であり、かつ養育行動と関係する脳部位を明らかにする。 これまでに内側視索前野が少なくとも間接的に背外側分界条床核における経験依存的な神経可塑的変化に関与していることが明らかとなっている。そこで順行性・逆行性トレーサーを組み合わせてこの二つの脳部位の間に存在する神経回路機構を明らかにすることに特に注力する。 最終的に背外側分界条床核の直接的な上流領域または由来するシナプス入力を刺激することで、交尾未経験雄マウスの仔マウスに対する行動パターンを変化させることが可能か検証する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は実験データを得ることを優先して北米神経科学学会への参加を見合わせた。また共同研究の開始によりAAVウイルスベクターと光遺伝学的手法を用いた実験系の立ち上げおよびモデルマウスの作成が予定より進んだ。そこで当初の予定よりも光遺伝学実験を行う比重を増やした。 平成26年度はin vivo行動試験中の電気生理学的応答を記録するための実験系を立ち上げるため増幅器、AD変換器、電極、解析ソフトなど必要な機材を購入する予定である。また遺伝子改変マウスを用いてより詳細な神経回路研究を行うため、マウスの飼育スペースの拡充および系統管理に必要な人件費、物品費に充てる。
|
Research Products
(4 results)