2014 Fiscal Year Annual Research Report
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25713044
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
天野 大樹 北海道大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (00591950)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 社会行動 / 神経回路 |
Outline of Annual Research Achievements |
養育行動は哺乳類動物の新生児・幼児が生き残る上で欠くことが出来ない行動である。しかし養育行動の開始および維持に関わる機構の理解は十分ではない。交尾未経験の雄マウスは子殺し(喰殺)を示し、交尾や仔の出生など社会経験を経て父親になると養育を開始する。この行動変化を支える脳部位の神経可塑的変化およびその機構を明らかにすることを目指している。ここで得られた知見を手掛かりとして、養育行動効率を改善するための新たな手法開発へとつなげることが期待される。これまでに養育開始時に背外側分界条床核神経細胞への抑制性入力シナプスにおける可塑的変化を見出し、その機構の一つとして内側視索前野に依存して起きることを明らかにしている。平成26年度は背外側分界条床核に人工GPCR遺伝子を発現させ、特異的リガンドを腹腔内投与することで背外側分界条床核の機能を阻害した。その条件下において仔マウスに対する喰殺の遅延または阻害が観察された。また電気生理学的実験から父親マウスの内側視索前野における神経可塑的変化を見出すと共に、背外側分界条床核神経の細胞内シグナル伝達系が抑制性入力シナプスの神経可塑的変化に関与することを明らかにした。以上の結果より内側視索前野の活性化に伴って背外側分界条床核への作用を開始する神経伝達物質の存在が予想された。そこで自由行動中のin vivoマイクロダイアリシス実験を開始し、仔マウスとの遭遇を引き金として放出される神経伝達物質の同定を目指している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的の一つは、社会経験依存的な神経可塑的変化について電気生理学的に検証することである。当初の研究計画通り、2年目までにこの目的について既に達成している。また養育・喰殺行動中に遊離され、神経可塑的変化を引き起こし得る神経伝達物質の選定のためin vivoマイクロダイアリシス法の条件検討を既に十分に行い、本実験を開始した。さらに電気生理学的解析を並行して進めることで、候補となる神経伝達物質の機能について確認を行っている。 また光遺伝学的手法を用いることで喰殺を止め、養育を促すことが出来る入力シナプスの同定することを目的としていた。特定の神経細胞の人為的操作を可能にするために導入した遺伝子改変マウスの行動様式が喰殺よりも養育に圧倒的に偏っていたことから、5世代の戻し交配を所属研究室内で行っている。その結果、これまでの野生型マウスを用いた実験結果と比較可能な行動様式となってきていることが予備実験から明らかとなっている。 平成26年度中に異動となり、マウスの移動・クリーンアップ・各種実験計画の承認手続き等があった。この間、戻し交配の時期と重なったこと、および異動先研究室で以前から行われていたin vivoマイクロダイアリシス法を応用することで実験系の立ち上げにかかる時間を短縮することが出来た。以上から、本研究は目的に照らし、概ね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度に引き続きin vivoマイクロダイアリシス法を用いて神経伝達物質の細胞外濃度について経時的解析を行い、仔マウスとの遭遇に引き続いて起こる養育・喰殺行動時にどのような変化が起きるか解析する。また電気生理学的記録を分界条床核神経細胞から行い、候補となる神経伝達物質が抑制性入力シナプスの機能を調節するか検証する。さらにそれぞれ作動薬・阻害薬の背外側分界条床核への微小注入を施したマウスの行動様式を観察することで、仮説を検証する。現在2種類の神経伝達物質に絞って検証を行っているが、養育・喰殺との関係を裏付ける結果が得られなかった場合には、in vivoマイクロダイアリシス法で脳内を経由して回収されたリンゲル液をLC-MASSを用いて分析することで他の神経伝達物質の可能性を探る。 その一方で分界条床核をはじめとする養育・喰殺行動を司る脳部位に対する入力シナプス特性を解析する。入力元となる脳部位の選定には平成26年度までに検証したトレーサー実験結果を参考にする。これらのマウス脳内にチャネルロドプシン遺伝子等を発現させて、背外側分界条床核および内側視索前野の入力・出力神経回路の電気生理学的記録を行い、光刺激したときの電流成分について解析を行う。その上で脳内に挿入した光ファイバーを介した光照射することで、部位特異的に神経線維を活性化・抑制することによる養育・喰殺行動への影響を調べる。近年、それぞれの神経核の中でも亜核や細胞の種類を考慮した解析が求められるようになってきている。そこでジャクソン研究所よりvGAT-IRES-creマウス等の遺伝子改変マウスを導入することでより特異性の高い検証を行う。
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Causes of Carryover |
理化学研究所から北海道大学への異動したことにより、動物実験計画および遺伝子組換え実験計画の所内承認手続を行う必要が生じた。さらにマウスの移動をするにあたりコンベンショナルグレードからSPFグレードへとクリーンアップを行う必要が生じた。実施にかかる経費の支払いは作業終了後である。上記の作業を年度内に終了することは困難であった。そこで一部予算を次年度に使用することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
コンベンショナルグレードで飼育されていたマウスのSPF化を公益財団法人実験動物中央研究所へと依頼中であり、完了後に支払いを行う予定である。そのための費用を平成27年度に繰り越した予算から支払う予定である。残った予算は遺伝子組換え実験の承認手続き等の所内手続き終了後のウイルスベクターの購入費用、実験用・交配用マウス購入の予算に充てる。
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Research Products
(5 results)