2014 Fiscal Year Research-status Report
飛行体による蓄積運搬型転送を利用した生態及び環境観測システムの研究開発
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25730055
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Research Institution | Nagaoka University of Technology |
Principal Investigator |
山本 寛 長岡技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80451201)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ネットワーク運用技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,地形の影響を受けず自由に移動できる飛行体を利用した蓄積運搬型転送技術の確立を目的としている.平成26年度は,飛行体DTNの運用管理に必要となる「①時間的に変動する通信品質をモデル化する技術」,「②生態観測のフィールドを対象とした飛行体DTNの運用管理技術」の研究開発を行った.
①について,移動体がフィールド上を移動することで周辺の無線ネットワークの敷設状態や利用状況が変化し,時間とともに長期的な特性(例: 長期平均,分散)が変化する通信品質(特にネットワーク遅延)をモデル化する方法を研究した.まず,モバイル網を経由した移動体・サーバ間のネットワーク遅延を計測するツールを研究開発し,長期的に計測した通信遅延のデータセットを解析して,自己回帰和分移動平均(ARIMA)モデルによる時系列解析を用いて評価モデルを構築した.しかし,ARIMAモデルでは通信品質の長期的な特性の変化までは表現できなかった.そこで,この長期的な特性の変動を隠れマルコフモデルで表現するMarkov Regime Switchingを用いたモデル化手法を確立した.
②について, GPSモジュールを搭載したAR Droneを対象として,目的地の緯度・経度だけでなく高さも指定でき,センサノードからデータを回収するだけでなく,周辺の風景をAR Droneに搭載されているカメラで撮影する,生態観測のための自律飛行システムを研究開発した.また,小電力無線ZigBeeの通信装置を取り付けた複数の移動体のネットワークトポロジを収集・解析することで,移動体の稼働状況を推定する手法を提案した.具体的に,ZigBee の標準的な機能であるノード探索を利用することで移動体の隣接関係を推定し,電波強度を基に実距離を推定する.この技術により移動体の位置関係を把握し,正しく稼働しているか推定する運用管理システムを実現できる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
飛行体DTNにおいて通信に使用する無線ネットワークに着目し,通信品質(ネットワーク遅延)の長期的な特性の変動までモデル化する技術を確立した.この研究では,長期的な特性の変動を隠れマルコフモデルで表現するMarkov Regime Switchingを用いて,無線ネットワークにおける通信品質の現実的な時間変動を再現できる数学モデルを構築した.これにより,DTNを対象とした通信方式の評価を可能とする現実的かつ大規模な計算機シミュレーションを実施できると考えられる.
また,フィールド上を飛行して生態観測に役立つデータを収集できるように,市販の飛行体であるAR Droneをベースとして,GPSから得られる位置情報を基に指定した緯度・経度・高さまで自律的に飛行する機能を拡張した.また,センサデータの収集だけでなく,自身もセンサ端末となり周辺の風景などのデータを収集できる飛行体を設計・試作した.さらに,飛行体に省電力無線(Zigbee)の通信機能を拡張し,飛行体間の接続状態や電波強度を解析することで飛行体の稼働状態を推定する,運用管理システムの設計も完了している.
以上のように,飛行体DTNの通信方式を評価するための評価モデルの構築だけでなく,生態観測のフィールドで飛行体を運用するための運用管理システムの設計・試作も順調に進んでおり,平成26年度の目的を達成できたと考える.
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は,これまでに構築した通信品質を表現できる評価モデルをベースとして,センサノードから管理サーバへデータを収集する際の通信品質が最良となるように,飛行体の移動経路等を最適化する方式を検討する.具体的には,市販の多くの飛行体に備わっている2.4GHz帯の無線LANだけでなく,429MHz帯のように低速ではあるが長距離の通信が可能となる周波数帯を使用する無線ネットワークも活用し,収集するデータの種類に合わせて最適な通信方式を選択する技術を研究開発する.さらに,生態観測のフィールドで発生する飛行体の運行を阻害するイベント(例: 強風による墜落,木への激突,など)の発生パターンをモデル化し,これらの発生がデータの収集効率に与える影響を評価する.
また,無線LAN,携帯網,長距離無線(429MHz等)といった複数の無線ネットワークをサポートする飛行体を実装するだけでなく,データを収集する対象のセンサノードの指定や飛行体の運行状況の把握が可能となる,運用管理システムを設計・試作する.この運用管理システムは,ICT技術に精通していない生態学の研究者でも利用できるように,操作方法や表示内容が直観的に理解できるようなインタフェースを設計する.さらに,実装した運用管理システムの実用性を評価するために,生態観測を想定したフィールド上で飛行体の運行を実際に管理する実証実験を実施する.
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Causes of Carryover |
平成26年度の研究開発も,平成25年度と同様に飛行体に対して事故の起こりにくい環境で実証実験を行っていたこともあり,想定よりも飛行体の消耗数が少なかった.一方,平成27年度の研究開発では,生態観測のフィールドを対象とした運用管理システムの実証実験を予定している.このような環境では,強風による飛行体の墜落や木への激突が多く発生することが予想されるため,平成27年度は多くの機材を消耗する可能性を考慮している.さらに,近年マルチコプターの市場は急速に成長しており,様々な飛行体が販売され始めている.平成27年度は,生態観測での利用に適した飛行体を模索するために,様々なマルチコプターを購入して可用性を評価することも予定している.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度と同様に,実証実験を実施するための消耗品,旅費(現地での実験・評価,学会発表,研究打合せ)を予定する.また,学会発表のための参加費や,学会誌等に採録された論文の別刷り代などを予定する.
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