2014 Fiscal Year Research-status Report
量子化学大規模並列計算アルゴリズムの開発とその実装
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25730079
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
石村 和也 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 特任研究員 (80390681)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 量子化学 / 並列計算 / 計算化学 / スーパーコンピュータ / 電子状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
Newton-Raphson法を利用した構造最適化計算において、初期Hessianを分子力場パラメータから作成するため分子の結合、角度、二面角の情報を使うredundant座標を導入し、さらにHessianの固有値を補正し確実にエネルギーが下がる方向に原子座標を動かすRational Function Optimization(RFO)法も実装して、Cartesian座標を用いた場合に比べて最適化サイクル数を1/5から1/6に削減した。分子間相互作用計算にも対応するため、強い共有結合でつながっていない分子間の結合を追加するなどの工夫も行った。初年度に開発したエネルギー1次微分計算のMPI/OpenMPハイブリッド並列アルゴリズムと組み合わせることで、ナノサイズ分子系の実用的な構造最適化計算が可能になった。 2014年9月に大規模並列量子化学計算プログラムSMASHをオープンソース(Apache 2.0)ライセンスで公開し、Webサイトとマニュアルを英語で作成した。分子軌道を可視化するため、計算結果をvtkファイルに変換するコードも準備し、2015年1月には2電子積分計算のチューニングで実行性能が5%程向上したバージョン1.1.0を公開した。2015年3月までの6か月間のダウンロード数219で、そのうち20%弱は海外からであった。 応用計算では、金24原子とその保護基からなる原子数264、直径2.5nmの分子の計算を京コンピュータで行った。中心部分の金4原子クラスター2つの距離をMP2法で計算と解析を行い、弱い相互作用が重要であることを示した。この計算では、6TByte以上の大量のデータを各ノードに分散させて実行した。原子数560、5重項開殻系の金属酸化物担体とロジウムクラスターの計算では、電子の詰まっていない軌道のエネルギーを補正しSCF繰り返し計算途中での軌道の混ざり方を制限するLevel Shift法などを実装し、複雑な電子状態のエネルギー計算の収束を可能にした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に開発したエネルギー微分MPI/OpenMPハイブリッド並列アルゴリズムにより構造最適化1サイクルの計算時間が短くなり、今回のredundant座標及びRFO法の導入によりサイクル数の大幅な削減を実現し、構造最適化計算全体を並列効率良く高速に実行できるようになった。 京コンピュータを始めとするスーパーコンピュータで、数百原子からなるナノサイズ系の計算を開始した。計算負荷、データを均等に分散させることでこれまで困難であったサイズの計算が可能になった。得られた計算結果を可視化するコードも作成し、詳細な解析も進めている。 複数の2電子積分ルーチンの統一的インターフェイスを作成し、エネルギー計算だけではなく、エネルギー微分計算のプログラム実装を容易にした。さらに、プログラムをオープンソースで公開したことで、2電子積分計算など一部のルーチンを抜き出しと他のプログラムへの組み込みが始まり、これまでボトルネックであった電子状態計算部分を高速化させるなど他の研究者との連携が始まった。計算及び開発両面で実用的なプログラムになりつつあると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
スーパーコンピュータを利用してこれまで困難であったサイズの触媒反応などの計算及び解析を進めていく。複雑な電子状態でも確実にエネルギーを収束させるため、様々な収束技術や初期値計算方法の導入も行う。初期値については、現在単純な拡張Huckel法で求めているが、特に金属原子の多い系の計算ではより精度の高い方法で作成することで繰り返し計算の初めから適切な軌道に電子を詰めることができると考えられる。さらに、化学反応の中間体である遷移状態の計算、分子の振動計算など、化学反応の解析及び予測で行う一連の計算を可能にするため、エネルギー2次微分計算の並列アルゴリズムを開発、実装する。 SMASHプログラム公開によって始まった量子化学計算と他の計算方法との融合についても、さらに発展させていく予定である。公開したプログラムは、PCから京コンピュータまでスカラ型CPUを搭載した計算機システムの大半をサポートしているが、より幅広く対応するためソースコードの改良も行っていく。
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Causes of Carryover |
国内および海外出張が予定より少なく、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
成果発表で海外出張2回、国内出張3回を計画している。
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Remarks |
作成した大規模並列量子化学計算プログラムSMASHをオープンソース(Apache 2.0)ライセンスで公開した。
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Research Products
(8 results)