2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25730093
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
足立 幾磨 京都大学, 霊長類研究所, 助教 (80543214)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 感覚間一致 / 言語進化 / 系列処理 / 空間表象 / 比較認知科学 |
Research Abstract |
本研究では、ラベル獲得の進化的・発達的基盤のひとつの要因として注目を浴びている、感覚間一致に焦点を当て、比較認知科学的研究を実施している。本年度は、特に、チンパンジーを対象とし、空間と序列の間の感覚間一致に注目し下記の2実験を実施した。1:社会的順位と空間の感覚間一致、2:学習した系列と空間の感覚間一致。 実験1では、選択肢を上下に配置する見本合わせ課題をもちい、既知個体弁別をさせた。その際、3条件を設定した。高順位の個体が画面上部に、低順位の個体が画面下部に提示される一致条件。その配置が逆になった不一致条件。そして、同程度のランクの個体が選択肢に出される統制条件であった。実験の結果、順位については一切問わない個体弁別課題であったにもかかわらず、見本刺激が優位個体か劣位個体化によらず、一致条件時には不一致条件よりも反応時間が短かった。また統制条件では、ちょうど中程度の反応時間を示した。これは、社会的順位が空間上にマッピングされる形で一種メタフォリカルにとらえられていることを示唆している。 実験2では、日常の経験による影響を排除するため、学習状況を統制した人工的な系列をもちいて、順序と空間情報処理の間の感覚間一致を分析した。霊長類研究所のチンパンジーは、ランダムな場所に提示される1から9のアラビア数字を小さい順に触ることを学習している。この課題をベースラインとし、テスト試行では、1と9だけを水平に配置した。テスト試行の半分は1が左、残り半分は1が右に提示された。その結果、利き手によらずチンパンジーの反応時間は、左に1が提示された場合に早くなることが分かった。これは、空間情報を無視したほうが都合がよい課題であるにもかかわらず、系列情報を処理する際には、空間的にとらえてしまうということを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本申請研究は、様々な感覚間一致を調べることで、その進化的な起源を探ることを目的としている。本年度は、二つの感覚間一致の分析に成功し、そのいずれもがすでに論文として刊行された。研究が順調に進んでいるといえる。 ただ、視聴覚情報の感覚間一致の研究を次年度以降に回し、空間表象との系列の感覚間一致へと課題をシフトしたため、完全に計画通りとはいえない。よって、おおむね順調、と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き感覚間一致、音象徴について比較認知科学的な分析をおこなう。特に下記の2点に重みをおくが、本年度のように、選択する感覚間一致、対象種については柔軟に選択し、包括的に感覚間一致の進化的起源を探求する。 研究1:音の高さと空間的高さの間の感覚間一致の分析 まず、音の高さと空間的な位置の間の感覚間一致を分析する。視覚刺激の種類自体は特に問題としないため、通常の見本合わせ課題をもちいる。ただし、選択刺激の配置を上下に並べて呈示する。干渉刺激として高音・低音、あるいは、低音から高音へと移行する上昇音、高音から低音へと移行する下降音をもちいる。もし、ヒトと同様の感覚間一致をもつとすると、被験体は高音や上昇音からは空間的に上側を、低音や下降音からは空間的に下側に注意が向きやすくなると考えられる。上下に対呈示した視覚刺激のうち、この感覚間一致にそぐう刺激が正答である試行の方がそうでない試行よりも、成績がよくなると考えられる。 研究2:音の大きさと視覚刺激の大きさの間の感覚間一致の分析 まず、様々な形をした視覚刺激について大きさに基づいて弁別することを訓練する。手続きには、多対一象徴見本合わせ課題をもちいる。大小それぞれのカテゴリーに複数個の大きさが包含されるように刺激セットを作成する。学習成立後、テスト試行では聴覚刺激を干渉刺激として呈示する。聴覚刺激には異なるデシベル数の純音を用意する。もし、ヒトと同様の感覚間一致をもつとすると、被験体は大きな音とは大きな視覚刺激が、小さな音 とは小さな視覚刺激が結びつくと考えられる。こうした感覚間一致にそぐう刺激が正答である試行の方がそうでない試行よりも、成績がよくなると考えられる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費の差額について:本年度、系列情報と空間情報の感覚間一致の研究を先に遂行し、聴覚刺激をもちいた覚間一致の研究をおこなわなかった。そのため、聴覚刺激の作成、呈示に必要なプログラム、装置の購入を次年度に持ち越し、差額が生じた。 旅費の差額について:予定していた国際学会での発表が、招待講演となり旅費の支出が必要なくなった。成果が順調に出ているため、さらに国際学会での成果公表を進めようとしたが、教務、および、学会運営業務等と重なり断念せざるを得なくなった。これらの理由により、旅費に差額が生まれた。 今後、当初予定していたとおりに聴覚刺激をもちいた感覚間一致の研究を遂行する。それに伴い、本年度見送った聴覚刺激を作成・提示するためのプログラム、装置を購入する。本年度からの繰り越し分をそれに充てる予定である。 また、成果が順調にでているため、本年度別業務等により断念せざるを得なかった国際学会に、次年度はより積極的に参加することで、成果の公表に努める。
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