2013 Fiscal Year Research-status Report
重イオン誘発バイスタンダー効果の時空間依存性の解析
Project/Area Number |
25740019
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
横田 裕一郎 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究副主幹 (30391288)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | バイスタンダー効果 / 重イオン / ガンマ線 / 線量依存性 / 線質依存性 / 一酸化窒素 / carboxy-PTIO / ザルツマン法 |
Research Abstract |
バイスタンダー効果は、照射細胞から放出される細胞間情報伝達物質を介して、周辺の非照射細胞にも放射線の効果を伝える現象である。本課題の最終目標は、重イオン誘発バイスタンダー効果の時空間依存性を明らかにすることであり、平成25年度はその一環として、バイスタンダー細胞致死効果の線量及び線質依存性を調べた。 実験では、ヒト正常繊維芽細胞株WI-38に2 Gyまでの炭素イオン(LETは108 keV/μm)又はガンマ線(0.2 keV/μm)を照射し、照射細胞と共培養した非照射バイスタンダー細胞の生存率を、コロニー形成法で調べた。その結果、バイスタンダー細胞の生存率は、0.5 Gy以下では線量の増加とともに低下し、0.5 Gy以上では80%前後で下げ止まった。一方、生存率低下の線量応答は炭素イオンとガンマ線で類似しており、バイスタンダー効果は線質に依存しないことを明らかにした。次に、バイスタンダー効果誘導の分子メカニズムを調べるため、細胞間情報伝達物質の一種である一酸化窒素に注目し、その特異的スカベンジャーであるcarboxy-PTIOを培養液に添加したところ、バイスタンダー細胞の生存率低下は認められなかった。さらに、照射細胞が培養液中に放出する一酸化窒素の量を推定するため、一酸化窒素が酸化されて生じる亜硝酸イオンの濃度を、改良ザルツマン法で測定した。その結果、培養液中に含まれる亜硝酸イオンの濃度は、線量依存的に増加した後、0.1 μM前後で飽和した。以上のように、バイスタンダー効果は線量に依存するが線質には依存せず、その誘導メカニズムにおいて一酸化窒素が重要な役割を果たすことが示唆された。平成25年度に得た研究成果は、11th International Microbeam Workshop(Bordeaux, France)を含む国内外の会議で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題は、平成25年度~27年度の間に、重イオン誘発バイスタンダー効果の時空間依存性を明らかにすることを目標としている。このうち、初年度である平成25年度は、バイスタンダー細胞の生存率低下の線量及び線質依存性を調べるとともに、バイスタンダー効果の誘導における一酸化窒素の役割を調べた。その結果、バイスタンダー細胞の生存率は、用いた放射線の線質に依らず、照射細胞に暴露する線量が0.5 Gy~2 Gyの時に最小となることがわかった。また、一酸化窒素がバイスタンダー効果の誘導に重要な役割を果たすことも明らかにした。平成26年度は、これまでに得た研究成果に基づき、0.5 Gy~2 Gyの重イオンあるいはガンマ線を照射した細胞とバイスタンダー細胞を材料とし、一酸化窒素の下流で細胞間情報伝達物質として機能するような生体分子に注目することで、細胞間情報伝達物質阻害実験や遺伝子発現解析実験を効率的に進めることが可能である。以上のことから、研究計画は現在までおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の2年目となる平成26年度は、バイスタンダー効果の時間依存性に着目した解析を進める。具体的には、0.5 Gy~2 Gyの重イオンあるいはガンマ線を照射した細胞とバイスタンダー細胞を用いて、細胞内に含まれる一酸化窒素、活性酸素種、カルシウムイオンなど細胞間情報伝達物質の量的変化を分子イメージング技術でモニタリングするとともに、それらの産生に関わる遺伝子の発現強度を測定する。また、研究計画の3年目となる平成27年度は、バイスタンダー効果の空間依存性に着目した解析を進める。具体的には、特殊コーティングしたカバーガラス上で一列に並ぶようにパターン培養を行った細胞集団の一部に、0.5 Gy~2 Gy相当の重イオンマイクロビームを照射し、DNA2本鎖切断生成の分子マーカーであるリン酸化ヒストンH2AX、DNA2本鎖切断修復に関与する53BP1及びリン酸化型ATM等のフォーカス形成を指標として、バイスタンダー効果を発現する細胞の空間分布を顕微鏡下で観察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品購入等に際して、受注可能な複数の業者から見積りを取るなど、経費支出の削減に努めた結果、研究の実施に必要な物品購入等を実施した後に、予算の一部が残ったため。 次年度の研究計画を実施するための経費の一部に充てる。
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