2013 Fiscal Year Research-status Report
気候変動が水資源利用可能量に及ぼす影響-国際貿易の観点から-
Project/Area Number |
25740068
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
鶴見 哲也 南山大学, 総合政策学部, 講師 (50589364)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 水利用量 / 貿易自由化 / 経済成長 / 産業構造変化 / 気候変動 |
Research Abstract |
本研究は経済成長・人口変化・産業構造変化・気候変動といった要素が国際貿易とどのように関係しているのかについて明らかにし、それらの要素の変化が世界各国の水資源にどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることを目的としている。初年度である今年度は(1)貿易自由化が水利用量に及ぼす影響、(2)気候変動が貿易に及ぼす影響について検証を行った。 (1)は貿易自由化が経済成長・産業構造変化を通して水利用量に及ぼす影響を検証するものである。経済成長によって生産規模が増大する「規模効果」、環境意識や技術が高まる「技術効果」、そして産業構造が変化する「構造効果」の三つの効果に分けて、貿易自由化が水利用量に及ぼす影響を検証している。加えて貿易自由化および所得の同時性といった計量経済学上の問題を回避した上で分析を行っている。世界60カ国程度の国レベルのパネルデータを用いた分析の結果、貿易自由化の進展は世界全体の水利用量を平均的には減少させる可能性があることが示唆された。 (2)は気候変動による気温・降水量の変化が農作物生産に及ぼす影響を明らかにし、その変化が農作物の国際貿易に与える影響を見出すことを目指すものである。気温・降水量の過去のデータと農作物生産量の関係について分析を行い、気温・降水量の変化が主要農作物の生産量に及ぼす影響を明らかにしている。またその生産量変化が農作物の国際貿易に及ぼす影響についても分析を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
貿易自由化が水利用量に及ぼす影響について、世界各国の国レベルのデータを用いた分析を行うことができていること、そして、気候変動が貿易に与える影響についても研究が進展していることから、全体計画はおおむね順調に進んでいると言える。 ただし水利用量に関するデータが経年で得られない、そして得られる国数が限られるなど、データ制約が問題となって、統計的に有意な結果が得られていないケースが見られ、限定的な結果のみを示すにとどまっていることは課題であり、今後、分析手法の改善などでより多くの情報を提示できるよう工夫していくことが必要である。また貿易品目によって貿易自由化が水利用量に及ぼす影響は異なることが予想されるが、現状は主要な農作物についてのみ分析を行うにとどまっている。今後はより多くの品目について検証を行う必要があるものの2年目にその点を行うことは全体の計画の遅れを示すものではない。 また、研究実績の概要において記述した(1)貿易自由化が水利用量に及ぼす影響に関する研究、および(2)気候変動が貿易に及ぼす影響に関する研究、以上2つの研究を総合的に取りまとめるためには「バーチャルウォーター」の観点から国際貿易の役割を考察する必要がある。この点の考察については現状途中段階であり、今後バーチャルウォータの観点からの分析を行うことが必要である。ただし、この課題についても、計画2年目に対応することが可能であると考えており、全体計画に遅れを生じさせているものではない。以上より、現在までの研究の進捗状況はおおむね順調であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在まで、貿易自由化が水利用量に及ぼす影響について検証を行ってきているが、経済成長や産業構造変化に影響を及ぼす要素としては国際貿易以外に海外直接投資も大きな影響力を持つ可能性がある。貿易自由化の進展と海外直接投資の発展は同時に進むことが多く、片方のみの影響を見出すだけではグローバル化の進展の影響の全体像を見出すことにはつながらないことが危惧される。多国籍企業は地場企業よりも生産性や技術が高い場合が多く、地場企業に技術のスピルオーバーを生じさせる可能性がある。この技術変化によって地場企業の生産に必要となる水の量が変化する可能性が考えられる。貿易自由化の進展が水利用量に及ぼす影響に関する分析を継続させること、そしてそれに加えて、海外直接投資が水利用に及ぼす影響についても検証を行うことで、国際化の進展の影響の全体像を把握していきたいと考えている。 具体的には、多国籍企業が途上国の地場企業に対してどのような影響を持っているのかについて検証を行い、技術スピルオーバー、特に環境に関する技術のスピルオーバーが生じる可能性を検討したい。課題としては、途上国データの乏しさが挙げられる。このためデータ入手が可能となる国を選定し、対象国を絞った分析を検討したい。 貿易自由化の影響に関しては、これまで行えてきていない品目についても検証を行う。加えて品目別に生産に必要となる水の量は異なることから品目ごとのバーチャルウォーターを把握する必要がある。国際貿易の進展によって各国で必要となる水の量がどのように今後変化していくのかについて、バーチャルウォーターの観点から品目別検討を行っていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初、初年度にバーチャルウォーターデータの整備を行う計画であったが、バーチャルウォーターのデータ整備については2年目以降に行う方針に変更した。この変更は全体の研究計画の実現を妨げるものではない。この変更に付随して当初初年度に必要と考えていた人件費は大幅に減少した。また、バーチャルウォーターのデータ整備に必要であった高性能PCの購入についてもデータ整備の段階に入っていないことから購入を見合わせた。また画像解析ソフトの購入についてもデータ整備の段階に入っていないことから購入を行っていない。また初年度に支出する予定であった研究打ち合わせの旅費についても同様にバーチャルウォーターデータの整備がまだ始まっていないため、支出を遅らせることとした。 バーチャルウォーターデータの整備は膨大なデータを処理する必要があり、データ整理のための人件費が必要となる。この人件費へ支出を行う。 また分析手法を工夫することで画像解析ソフトの購入を控えても研究が遂行可能であることが今年度明らかとなった。研究計画の一部変更にあわせて海外直接投資の情報収集を行うための支出が必要となるが、ソフト購入費用分を海外直接投資のデータ収集のための費用に充てたいと考えている。具体的にはベトナムを対象として、データの入手および現地企業へのインタビューを行いたい。また、高性能PCの購入については、現在、より安価で同等のスペックのものが販売されており、購入金額を抑えることも可能と考えられるため、購入するPCの金額を抑えて海外直接投資の調査のための費用に充当したいと考えている。
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