2013 Fiscal Year Research-status Report
植物生態学の視点を生かした野外体験型教員養成プログラムの開発
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25750072
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Joetsu University of Education |
Principal Investigator |
谷 友和 上越教育大学, 学校教育研究科(研究院), 講師 (60547040)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 野外学習教材 / 植物生態学 / 積雪傾度 / 日本海側気候 / 仮説検証 |
Research Abstract |
本研究は、課題解決型の学習指導に対応できる理科教員を養成するための野外学習プログラムの開発を目的としている。プログラムのテーマとして「日本海側地域で一部の植物が大型化していることの謎」を掲げ、生態学分野の野外研究を咀嚼して、教員養成のための学習プログラムを構築することを特長とする。 平成25年度は、ウバユリ(ユリ科)と、その大型化した変種であるオオウバユリの間に生じている個体サイズ変異の実態解明を進めるため、栃木県日光市と群馬県片品村において個体群動態調査を行った(5月14~19日)。この調査は平成19年度から継続して行っているが、これまでに集積した調査結果を分析した結果、ウバユリよりもオオウバユリの方が葉面積の年増加率が大きいことが明らかとなった。また、8~9月には、新潟県上越市内にて、新たにオオウバユリ生育地を11箇所見つけた。本調査により、積雪量の少ない直江津地区よりも積雪の多い金谷山地区の方が個体サイズが大きいことが判明した。また平成25年度には、上越地方におけるオオイワカガミ(イワウメ科)の葉サイズ変異と気象要因との関係についても調査を進めた。この調査の結果、オオイワカガミの葉サイズは積雪量よりも、生育地の日照量に応答して変化することが示唆された。 平成25年度には学習プログラムの内容についても検討を進めた。専門研究のプロセスを仮説設定の段階から学べるプログラムとするため、上越市金谷山麓に見られる、個体サイズの異なるオオウバユリ個体群を実習教材とすることを決めた。これらの個体群間にサイズ変異が生じた原因を気温や土壌水分含量、積雪量や日射量等の要因に着目して仮説を立ててもらい、それを検証・考察していく学習プログラムを考案した。作成したプログラムは、夏季に行われる野外観察指導実習の授業において実践する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、野外調査から得られた知見に基づいて野外学習プログラムを開発し、それによって課題解決型の学習指導に対応できる理科教員の育成を図ることである。研究計画では、1年目となる平成25年度には野外での植物生態研究を進めつつ、学習プログラムの骨子を作ることを目標としていたが、現時点において、この計画に沿って研究が進行している。 オオウバユリとウバユリの個体群動態調査においては、これまでの集積データから、両種の個体成長過程の違いが明らかとなりつつある。上越地方におけるオオイワカガミの個葉サイズ変異と気象要因に関する研究では、日射量と個葉サイズとの間に正の相関関係があることが明らかとなった。このように、地理的サイズ変異の成因解明に向けて、研究の進展が見られている。 野外学習プログラムの開発に関しては、当初の予定どおり、プログラムの骨子を作成することができた。生態学研究の成果の中から、上越地方におけるオオウバユリのサイズ変異パターンに着目し、本来オオウバユリが生育する上越地域において、小型のウバユリタイプの個体が観察されることを題材として選んだ。その上で、個体サイズと物理的環境との間の関係性について仮説を立ててもらい、実際の環境計測データを利用して、仮説の検証を行う学習プログラムとした。従属変数と説明変数を用いた仮説の設定や、実際の環境計測データを用いて受講者に仮説検証を試みてもらう設計となっており、課題解決型の学習プログラムとして当初の目的に近いものが構築できたと考えている。 このような理由から、達成度を「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
研究対象植物であるウバユリ・オオウバユリおよびオオイワカガミは、北日本や日本海側で個体サイズが大型化していることから、過去の研究において、春先の低温と積雪(融雪)が、個体の水分生理と光合成機能を通じて、大型化に関与している可能性が指摘されてきた。今後はこの指摘を踏まえ、積雪量が植物の個体サイズ変異とどのように結びついているのかについて、蒸散量や水ポテンシャルの測定を通じて詳細に分析していきたい。ウバユリ・オオウバユリのサイズ変異に関する研究では、個体群動態調査を今後も継続することにより、種子の発芽から開花に至るまでに要する年数の特定を進める。オオイワカガミの個葉サイズ変異の研究に関しては、各調査地における積雪期間を特定するため、これまでに発見した25箇所の調査地にロガー付きの小型温度センサーを設置しており、今後はこれらの温度計の回収と解析を進め、積雪期間と個葉サイズとの関連性について検討を進めたい。また、オオイワカガミにおいては各調査地において比葉面積(SLA)の計測を行い、生理学的観点からもサイズ変異の成因を探る。気象データについては、気象庁アメダス観測データの利用や、各種センサーを調査地に設置することにより、データ精度と分析手法の洗練化を進めたい。 今年度以降は、平成25年度に構築した学習プログラムを野外実習の授業において実践する。学習プログラムの内容については受講者の事後評価や、新たに集積する生態学研究の知見に基づいて逐次改善していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究代表者の研究室に所属する大学生および大学院生が、植物生態学の学習と野外調査方法に関する実習を兼ねて、本研究の野外調査に協力してくれたため、今年度は謝金等の支払いが生じなかった。このことが、次年度使用額が発生した原因となっている。また、次年度使用額は当該年度の支払請求額の0.1%以下であり、当初の使用計画と実支出額とが異なったことにより研究の遂行に問題が生じたということはない。 次年度使用額の大半は、平成26年度に調達予定の物品費または旅費に使用する予定である。この措置によって今後の研究の推進に有効に活用する予定である。
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Research Products
(2 results)