2014 Fiscal Year Research-status Report
植物生態学の視点を生かした野外体験型教員養成プログラムの開発
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25750072
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Research Institution | Joetsu University of Education |
Principal Investigator |
谷 友和 上越教育大学, 学校教育研究科(研究院), 講師 (60547040)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 個体サイズ変異 / 野外学習プログラム / 環境傾度 / 因果モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、課題解決型の学習指導に対応できる理科教員を養成するための野外学習プログラムの開発を目的とする。学習テーマとして「日本海側地域で一部の植物が大型化していることの謎」を掲げ、植物生態学研究の成果を野外観察学習に活かすことを目指している。特に、ウバユリ(ユリ科)と、それが大型化した変種であるオオウバユリの間に生じている個体サイズ変異の実態解明に焦点を当てている。平成26年度は、5月13日~18日に、栃木県日光市(東大日光植物園)と群馬県片品村(民有地)において、個体群動態調査を行った。これまでに採取したデータに基づくと、野外に生育する個体では、ウバユリよりもオオウバユリの方が葉面積ベースでの年成長速度が高いが、植物園内の温室で栽培すると、ウバユリの方がオオウバユリよりも葉面積の増加速度が速くなることが示唆されつつある。4月27、28日には、上越市近郊の、個体サイズの異なる2つのオオウバユリ個体群において、葉の水ポテンシャルと蒸散速度、光合成速度等の測定を行った。その結果、土壌から葉への通水コンダクタンスは、大型個体の方が高く、大型個体では葉への水輸送能力が高いことが分かった。このことは、先行研究における予想と一致した。 8月25、26日には、大学院生を対象とした野外観察指導実習において、上越市金谷山に生育するオオウバユリ集団が示す個体サイズ変異をテーマとした野外学習プログラムを実施した。本プログラムは、(1)個体サイズ変異の実態を確認する野外調査、(2)個体サイズを従属変数、環境因子を独立変数とした因果モデルについての学習、(3)サイズ変異を説明するための仮説生成作業の3要素で構成した。多くの受講者は、光合成・蒸散、水分通導、年成長量、生育日数、開花所要年数などのファクターを組み合わせて、サイズ変異を説明する何らかの仮説を立てることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、植物生態学の調査結果をベースに野外学習プログラムを開発し、課題解決型の学習指導に対応できる理科教員の育成を図ることにある。研究2年目には、野外での個体群動態調査を継続するとともに、成長時の同化量および水利用特性に関する調査を進めることができた。これは当初の計画にほぼ沿っている。オオウバユリとウバユリの個体群動態調査においては、これまでの集積データから、両種の個体成長様式について、興味深い結果が得られている。また、プレッシャーチャンバーを用いた水ボテンシャルの測定については、当初予定のように、季節を変えた測定はできなかったものの、春季の2日間の測定から、個体サイズと土壌の水利用性との間の相関が示唆された。 野外学習プログラムの開発に関しては、前年に作成した案に従って、野外実習において学習プログラムを実践することができた。サイズ変異を説明する仮説を生成する作業においては、物理的環境因子が光合成や蒸散に及ぼす影響や、個体の齢や年間の生育可能日数といった時間軸が個体サイズに及ぼす影響に関する仮説が提示され、いくつかの仮説は、既存の蓄積データによって否定された。その場合、受講者に再度仮説を立てることを促した。このように、仮説生成を繰り返す作業を当初の計画通りに盛り込むことができた。実習終了後には、受講者からアンケートを取り、実施したプログラムに関する評価を得ることができた。 このような理由から、研究が「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究対象種のウバユリ・オオウバユリやオオイワカガミは、北日本の日本海側で個体サイズが大型化しており、春先の低温と積雪(融雪)が、個体の水分生理と光合成機能を通じて、大型化に関与している可能性が従来から指摘されてきた。この予測の妥当性について今後も検証していきたい。ウバユリ・オオウバユリの個体サイズ変異については、発芽から開花までの個体の一生を通して成長パターンが特定されることにより、低温や多雪といった北国特有の環境因子が個体の成長に及ぼす影響の全貌が掴めるため、今後も個体群動態調査を継続していきたい。また、野外と温室とで、ウバユリとオオウバユリの成長速度の高低が逆転していることについて、原因を探りたい。オオイワカガミの個葉サイズ変異に関しては、平成25年度より、上越市内の各所にロガー付きの小型温度センサーを設置しており、2年間の蓄積データから、積雪期間と個葉サイズとの関係について結論を得たい。 平成26年度に実施した学習プログラムに関する事後アンケート調査では、「列挙された環境要因の中から何を選べばよいのか分からず難しかった」、「仮説に使用する独立変数をあらかじめ精選しておいた方がよい」、「因果のつながり方が難しい」、「求められている答えが何か分からない」といった受講者の意見を得ることができた。今後、仮説設定の作業をより明解に行えるよう工夫を施すと共に、仮説を立てることの意味や科学研究の進め方についても受講者に伝える努力をしていきたい。平成27年度は、事後アンケートの結果を踏まえて学習プログラムを改良して野外実習に臨みたい。実習の受講者に理科の課題解決力を身につけさせると共に、フィールド科学の難しさと面白さが伝えられるような学習教材に仕上げたい。
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Causes of Carryover |
当初の計画に沿った研究費の使用に努めたが、購入物品の価格変動の影響により、6円の未使用額が発生した。未使用額は当該年度の使用可能額に比べて十分に少ないため、これにより研究の遂行に問題が生じたとは言えない。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、平成27年度に調達予定の物品費の一部として有効に活用する予定である。
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