2013 Fiscal Year Research-status Report
プロテオミクス技術を用いた文化財中の膠原料のアミノ酸配列情報解析
Project/Area Number |
25750104
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
河原 一樹 大阪大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (60585058)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 考古学 / 膠 / コラーゲン / プロテオミクス / 質量分析 |
Research Abstract |
本研究では、質量分析を基盤としたプロテオミクス技術を用いることにより、高度に汚染された発掘資料を含む文化財に残存する膠などのタンパク質成分を高感度で検出し、そのアミノ酸配列情報を得ることで、原料となった動物種、製造法など、当該文化財を特徴づける情報を読み解く手法論を提案する。 これまでの文献調査から、膠の原料となった動物種は牛、水牛、犬、豚、猪、驢馬、馬、鹿、魚(ニベ)、そして兎など多岐に渡ることが明らかになっているが、これらの動物の多くは未だにDNAの塩基配列が解読されておらず、一般的なプロテオミクス解析で用いられる既存の配列データベースとの照合によるタンパク質の同定法が利用できない。そのため、個々の動物の膠を独自に調製し、標準試料ライブラリーを作製する必要があった。本年度は、比較的入手が容易であった牛、水牛、犬、豚、馬、鹿、魚(ニベ)、兎の各膠に関して、質量分析を用いたアミノ酸配列情報解析を行い、個々の膠の原料となったコラーゲンの動物種間で生じるアミノ酸配列の若干の差から、これらの膠を区別することが可能であることを示すことができた。今後は、文献調査を継続的に行い、標準試料ライブラリーの拡充を実施する予定である。 また、実際的な文化財の分析においては、極微量分析が求められると同時に汚染による不純物混入の問題を解決する必要がある。この問題の解決策として、極微量(数ミリグラム)試料に対して、ナノ液体クロマトグラフィーによる分離とエレクトロスプレーイオン化質量分析を組み合わせることで、不純物を含む試料においても高感度で膠の検出が可能であることを見出した。得られた成果の一例として、平城京より出土した墨片に含まれる膠の検出と解析を行い、牛膠が原料であることを強く示唆する結果を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
膠の原料となった動物種は牛、水牛、犬、豚、猪、驢馬、馬、鹿、魚(ニベ)、そして兎など多岐に渡ることが明らかになっており、原材料の入手のしやすさ、あるいは用途に応じて膠を作り分けていた可能性も示唆されるが、これらの文献の記述を検証する実証的な研究手法は未だ確立されていない。さらに、牛や水牛などは生物学的に近縁種であり、DNAの塩基配列と対応するタンパク質のアミノ酸配列も類似しているため、その判別も難しいと思われた。その点において、質量分析により、牛と水牛の区別も可能であることが明らかになったことは特筆すべきと思われる。但し、豚と猪、驢馬と馬に関しては今後の課題である。また、実際の文化財の分析として、平城京より出土した墨片に含まれる膠が動物種の同定も含めて分析することが出来たことは、作製よりおよそ千年以上経過した文化財中においてもタンパク質成分が分解・消失を免れて残存することを示す例であり、今後幅広い文化財に本法を適応していくうえで重要な成果であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で提案する質量分析を基盤としたプロテオミクス技術を用いた文化財中に残存する膠の分析においては、①できる限り多くの動物種を含む標準膠試料ライブラリーの作製、②質量分析を基盤とした高感度分析法の開発、そして③文化財試料の収集と分析の3項目を発展的に推進していく必要がある。 特に、②に関しては、ナノ液体クロマトグラフィーによる分離とエレクトロスプレーイオン化質量分析を組み合わせることで高感度分析を現実化しているが、クロマトグラフィーに供する試料の前処理、すなわち文化財からタンパク質成分を抽出する溶媒の選定や、用いる質量分析機器の種類に改善の余地があるため、その点の検討を実施する。場合によっては学内外の共同利用機器の使用を検討する。 また、①や③に関しては、適した試料の収集を随時行う必要があり、様々な関連学会に参加することで国内外の研究機関、博物館と連携体制に基づく試料の提供を受けている。奈良文化財研究所と共同で実施している平城京出土墨の分析や、関西大学、カイロ大学(エジプト)と共同で実施しているエジプトの遺跡から発掘された壁画の共同研究はその一例である。これらの連携体制を今後も更に強化し、より多くの文化財に対して、本研究で提案する手法を適用することで分析例を増やし、日本国内だけではなく世界的な規模での膠利用の実態解明へ向けた新規な手法となりうるか検討する必要がある。
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Research Products
(18 results)