2014 Fiscal Year Research-status Report
プロテオミクス技術を用いた文化財中の膠原料のアミノ酸配列情報解析
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25750104
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
河原 一樹 大阪大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (60585058)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 考古学 / 膠 / コラーゲン / プロテオミクス / 質量分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、質量分析を基盤としたプロテオミクス技術を用いることにより、高度に汚染された発掘資料等を含む文化財に残存する膠などのタンパク質成分を検出し、そのアミノ酸配列情報解析の結果から、原料動物種や製造法などの情報を解読し、当該文化財を特徴付ける情報を読み解く新規な手法論を提案することを目的としている。 これまでに実施した出土墨に関するマトリックス支援レーザー脱離/イオン化タンデム飛行時間型(MALDI-TOF/TOF)質量分析の結果から、実際の発掘資料は不純物の混入により高度に汚染されているため、分析結果の解釈が極めて困難であることが明らかになった。また、この問題の解決策として、ナノ液体クロマトグラフィーによる不純物の分離とエレクトロスプレーイオン化(ESI)質量分析の併用が効果的であることが明らかになった。この手法の利用により、平城京跡より出土した製作からおよそ千年以上経過した墨の極微量片においても膠の主成分であるコラーゲン由来ペプチドが現在も分析可能な状態で残存していることが明らかになった。さらに、本手法の適用により、およそ4400年前にエジプトで製作された壁画の固着財としてウシの皮由来のコラーゲンが利用されていることも明らかにすることができた。これらの成果は、広範な年代・地域に渡る文化財に、古代のタンパク質が現在も分解・消失を免れ、分析可能な状態で残存していることを示唆する結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究からナノ液体クロマトグラフィーによる不純物の分離とエレクトロスプレーイオン化(ESI)質量分析法を併用することによって、製作からおよそ数千年以上経過した文化財中においても膠(コラーゲン由来ペプチド)が残存していることが明らかになり、さらに、それらのタンデム質量分析によるアミノ酸配列情報解析から原料として利用された動物種の情報を解明することが可能であることが示唆された。 しかしながら、文献調査の結果、膠の原料として用いられた可能性のある動物は、牛、水牛、犬、豚、猪、鹿、魚(チョウザメ、ニベ)、驢馬、そして兎など多岐に渡ることが判明しているが、それらの動物由来コラーゲンのアミノ酸配列情報が、牛や犬、そして豚を除いて、既存のデータベースに未だ登録されていないため、たとえ研究対象とする文化財中にタンパク質が残存していたとしても、そのような動物に関しては質量分析から推定された配列情報と既存のデータベース情報との照合による正確な特定が困難であった。そこで、さらに文献調査を進めながら、独自に各動物種の膠を収集もしくは調製し、MALDI-TOF/TOF質量分析またはESI質量分析を実施することにより、標準スペクトルデータベースを構築していく必要がある。現在、上記のほぼすべての動物種由来の標準膠を収集し、質量分析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で提案する質量分析を基盤としたプロテオミクス技術を用いた文化財中の膠の分析においては、①文献調査などの結果を参考に収集したできる限り多くの動物種の膠試料から構成される標準膠試料ライブラリーの作製、②極微量試料の高感度質量分析法の開発、そして、③幅広い年代、地域に渡る文化財試料の収集、の3項目を発展的に進めていく必要がある。 特に、②に関しては、昨年度の実験結果から、ナノ液体クロマトグラフィーによる分離とエレクトロスプレーイオン化(ESI)質量分析を組み合わせることで、およそ数mgの文化財試料の分析を実現しているが、今後さらにクロマトグラフィーに供する試料の前処理法(主に、タンパク質成分を抽出するための溶媒の選定)の検討や、用いる質量分析装置の種類の選定に改善の余地があるため、その点を検討する。特に、高度に汚染された試料に関しては、多数の不純物に由来するピークと目的のタンパク質に由来するピークとの重なりの問題が無視できない場合も多く、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計などの高分解能質量分析計の利用も検討している。 また、①および③に関しては適した試料の収集を随時行う予定であり、学術雑誌やホームページなどで積極的に分析結果の情報を発信していくほか、様々な関連学会に参加することで国内外の研究機関、博物館との連携体制を更に強化していく必要がある。
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Research Products
(11 results)