2013 Fiscal Year Research-status Report
模型標本の技法及び構造研究-修復法の確立とレプリカ保存法-
Project/Area Number |
25750109
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
菊池 敏正 東京大学, 総合研究博物館, 特任助教 (10516769)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 文化財 / 保存 / 修復 / 標本 / 3D / 彫刻 / 木製 |
Research Abstract |
東京大学総合研究博物館では約三百万点の標本を収蔵している。現在も、標本収集を推進し、標本の種別は多岐にわたる。過去に収集された標本の中には、研究の場で用いられた模型標本が多く現存する。それらは、文化財という位置づけこそ持たないが、現代美術の創作活動にも多大なる影響を与えているものが多い。博物館の研究活動が継続していくにつれ、標本の歴史的位置づけの向上が予想される中、学術標本に対し現状維持のため防虫を目的とした燻蒸処置などは行われているが、様々な標本の中には修復を必要とするものも多く存在する。そのため、標本のデータベース化を進める一方で、モノとしての保存及び修復方法が問われることになる。 昨年度は、1800年代初頭に医学を教育、研究を目的として各務文献により制作された「木製人骨」について、調査を進め、レプリカ制作もおこなった。仏教文化に育まれた日本美術の伝統技法が近代化の進む日本で衰退していく中、多方面へ広がった痕跡をたどることも興味深い知見を得る事が出来、レプリカとして制作した木製人骨は、昨年春に開業した東京大学総合研究博物館インターメディアテクにて常設展示しており、また特別展時として「東大醫學、蘭方医学からドイツ近代医学へ」展にも出品し、現在も広く公開している。 また、東京大学医学部所蔵の頭蓋模型の修復にも着手し、順調に調査、作業を進めている。海外学術調査により、明治期に輸入された標本の調査も行ったため、研究に厚みが増している状況である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
学術標本の修復法について参照可能な、文化財美術工芸品修復分野及び考古遺物修復分野の技法、材料について検証し、学術資料に対し最も有効な素材等を選定する計画が、頭蓋模型標本、木製人骨標本について調査を行った事により成果を上げつつある。また、修復に伴い、学術標本の3Dレーザースキャニング計測を実施し、3Dデータとして保存を進めている。データを基に制作したレプリカは、公開展示にまで発展される事が出来ている。今後も修復、復元研究を遂行するにあたり、国内外での研究方法についても調査を実施し、比較検証することにより、輸入された学術標本に対するさらなる有効な修復材料の選定を行う。 また、今後予定しているモバイルミュージアムと称される展示方法は、展示ケースは同じものを使用し、学術標本だけを一定期間ごとに交換する、コンパクト且つ異動型の展示である。この展示形態に、本研究にて制作したレプリカ標本を使用する事により、オリジナル標本の保存を助けると共に、複数のレプリカを用いた多様な展開も可能となる。申請者がこれまで進めてきた文化財保存修復技法研究はその基盤となる分野であり、それが学術標本に活用できれば、研究型博物館の活動に大きく役立つ成果を挙げることとなる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、模型標本の素材の中でも彩色部分に着目し、表層部の彩色部分について剥落が確認されるものは蛍光X線分析による顔料の特定を進め、現在使用可能な顔料との適合性を検証する。(蛍光X線分析装置については博物館に設置されている。) また、様々な学術標本の専門分野以外に、文化財修復(美術工芸品)、文化財科学(考古遺物修復分野)、博物館工学の3つの分野から協力を仰ぎ、研究を進める。学術標本の修復についてはこれまでに無い研究領域であり、文化財保存修復分野と文化財科学、考古学分野を統合し研究を進める事が最も有効な手段であると考える。また、研究成果を新たな展示手法において試みるため博物館工学分野が組み込まれる事により更なる効果も期待できる。 学術標本に対する国外での保存修復法についての調査をおこなう。訪問先はドイツ ゲッチンゲン大学、ロンドン大英博物館等、複数箇所での調査を予定。旅行経路は東京―ドイツを航空便、ドイツ-ロンドンを航空便、現地での移動はバス、地下鉄を予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度の出張において、宿泊費を節約する事ができ、1018円の繰越金が発生した。 今年度は、外貨レートが昨年よりも上がっており、繰越金を含め出張費に補充する予定である。
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