2014 Fiscal Year Research-status Report
幸福感を高める前向き思考が心身の健康に及ぼす効果の検討
Project/Area Number |
25750354
|
Research Institution | Aichi Medical University |
Principal Investigator |
松永 昌宏 愛知医科大学, 医学部, 講師 (00533960)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 幸福感 / ストレス / 社会医学 / 衛生 / 応用健康科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
現代社会はストレス社会であり、多大なストレスによりうつ病などを発症する人々が年々増加している。本研究では、先行研究で疾病率や死亡率の低下との関連が見出されている「幸福感」に着目し、幸福感を高めるような心理学的介入により心身の健康状態を増進させる方略を検討した。
実験に参加した健康男女大学生42名を、その日にあった出来事を自由に日記に書き、その時に思った気持ちを書かせる『自由感情日記』実施群(14名)、その日にあった「良いこと」を三つ書き出し、良いことが起きた理由を考えさせる『3つの良いこと日記』実施群(14名)、『介入なし』群(14名)の3群に任意に振り分け、1週間それぞれの内容を続けてもらい、心身の健康に対する効果を検証した。その結果、『自由感情日記』実施群と『3つの良いこと日記』実施群の2群において、介入前に比べて有意に自覚的うつ症状が軽減した。また、幸福感が『自由感情日記』実施群でのみ上昇した。さらに、『自由感情日記』実施群でのみ、身体の活性化を示すと考えられる心拍数の上昇が確認された。これらの結果により、自由感情日記はストレス軽減作用と幸福感上昇作用を持ち、心身の健康状態を増進できることが分かった。
次に、幸福感の分子基盤を明らかにするために、多幸感を生起する生理活性物質であるカンナビノイドに着目し、カンナビノイド受容体遺伝子多型(CNR1)と幸福感との関連を探索した。健康男女大学生198名を遺伝子多型で群分けし(CC+CT、TT)、主観的幸福感を比較したところ、カンナビノイド結合能が高い遺伝子型であるCC+CT群の方が、TT群に比べて有意に主観的幸福感が高いことが示された。また、陽電子断層撮影装置(PET)により脳活動との関連を調べたところ、CC+CT群は腹内側前頭前皮質活動が高いことが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の研究成果から、①自由感情日記を用いた心理学的介入方法は幸福感を高め、ストレスを軽減し、心身の健康状態を増進する。②内因性カンナビノイドが幸福感の分子基盤、腹内側前頭前皮質が幸福感の脳神経基盤である。という2点が明らかとなった。したがって、幸福感を高める心理学的介入方法が確立でき、その介入方法が心身の健康に与える効果の脳神経基盤と分子基盤は、それぞれ腹内側前頭前皮質と内因性カンナビノイドである可能性が示唆された。
交付申請書に記載した研究実施計画では平成25年度中に幸福感を高めるための心理学的介入法を選定する予定であったが、実験実施前に予想した結果とは異なる結果が得られたため、研究方法について少し見直す必要があった。見直しの結果、今年度中に有効な介入方法を見出すことができ、その効果の脳神経・分子基盤の候補を示すことができたため、研究実施計画からはやや遅れているものの、期待通りの成果を挙げつつある。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成26年度中には、主要な研究実績に加えてもうひとつ有望な成果が得られている。今年度、非侵襲的かつ簡便に採取できる唾液を用いて、幸福感のバイオマーカー探索を試みた。質量分析装置により健康男女大学生28名の唾液中タンパク質を網羅的に解析したところ、唾液中ビタミンD結合タンパク質が幸福感のバイオマーカー候補として見出されたため、ELISAを用いて健康男女大学生102名の唾液中ビタミンD結合タンパク質の濃度を測定した。例数が少ないため残念ながら有意差が出るまでには至っていないが、幸福感が高い人々の群では、低い人々の群に比べて唾液中ビタミンD結合タンパク質の濃度が高い傾向が見られた。このことは、ビタミンDと幸福感との関連を示唆するものであり、幸福感の分子基盤の新しい側面が見出される可能性がある。
したがって次年度は、①幸福感を高める心理学的介入が腹内側前頭前皮質機能と内因性カンナビノイドにもたらす影響を明らかにする。②ビタミンDと幸福感との関連を明らかにし、心理学的介入がビタミンDに及ぼす効果を明らかにする、という2点に焦点を当てて研究を推進する。
|
Research Products
(3 results)