2013 Fiscal Year Research-status Report
新規開発したイオン選択的蛍光プローブを用いた神経細胞内マグネシウム動態の解析
Project/Area Number |
25750395
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
新藤 豊 慶應義塾大学, 理工学部, 助教 (30449029)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 海馬神経細胞 / マグネシウム / 蛍光イメージング |
Research Abstract |
本研究は、分散培養したラット海馬神経細胞を対象として、神経細胞内のマグネシウムイオン濃度がどのような外部刺激に対してどのように変化するのか、またそのメカニズムはどのようになっているのかを明らかにすることを目的として行っている。 本年度は、神経細胞が生体内で受け取る可能性のある物質のうち主要な神経伝達物質を選出し、分散培養した海馬神経細胞にそれぞれ添加したときの細胞内マグネシウム濃度変化を、蛍光イメージング法により観察、解析した。その結果、一酸化窒素が、神経細胞内のマグネシウムイオン濃度の上昇を誘導することを明らかにし、論文として報告した。この濃度上昇は、cGMP、PKGを介したシグナル経路が引き金となり、ミトコンドリアからマグネシウムイオンを放出させることによることが示された。このことは、神経細胞内のマグネシウムイオン濃度が一般的な細胞内シグナルにより変化し得ることを示しており、神経細胞内でのマグネシウムイオンの役割を解き明かす上で重要な発見であると言える。また、GABAがマグネシウムイオン濃度上昇を引き起こすことも明らかにし、学会にて発表を行った。 また、細胞内局所でのマグネシウムイオン動態を観察するための蛍光プローブであるKMG-104-AsHを開発し、論文として報告した。このプローブは、細胞に発現させた特定のペプチドタグに選択的に結合する性質を持つため、そのペプチドタグを局在させた細胞内局所でのマグネシウムイオン濃度変化を可視化することが可能となった。当初の研究計画にも記載したとおり、この新規プローブを用いた細胞内任意の局所におけるイオン動態の観察は、動員メカニズムを調べる上で強力な手法であり、今後の研究においては、神経細胞内でのマグネシウムイオン濃度変化を引き起こすメカニズムの解析をより詳細に行うことが可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の実施計画において初めに行うことは、ラット海馬神経細胞内のマグネシウムイオン濃度を変化させる外部刺激を発見することであった。そのために、初年度はまず主要な神経伝達物質を神経細胞に添加したときの細胞内イオン濃度変化の様子を、共焦点顕微鏡を用いて観察した。観察には、我々のグループで開発したマグネシウムイオン選択的な蛍光プローブであるKMG-104を用いた。現在までに神経細胞に添加した物質の中で、一酸化窒素およびGABAが神経細胞内マグネシウムイオン濃度を上昇させることを明らかにした。当初の研究計画では濃度変化を引き起こすメカニズムの解析は次年度に行う予定であったが、研究の実施に当たっては濃度変化を引き起こすことが分かった物質から随時メカニズムの解析へと実験を進めていくこととした。その結果、一酸化窒素はcGMP、PKGシグナル経路を介してミトコンドリアからマグネシウムイオンを放出させることを明らかにした。またGABA添加により引き起こされる神経細胞内マグネシウムイオン濃度上昇のメカニズムについても現在、解析を進めているところである。 また、マグネシウムイオン濃度変化を引き起こすメカニズムの詳細な解析に用いるための新規な蛍光プローブであるKMG-104-AsHを開発し、報告した。このことにより、本研究で用いる要素技術がすべて確立されたこととなる。 上記のように、神経細胞内マグネシウムイオン動態を解析する技術を確立し、主要な神経伝達物質の中で濃度変化を引き起こす物を発見し、その一つについてはメカニズムを明らかにすることができた。一方で、神経細胞の発火と細胞内マグネシウムイオン濃度変化の関係については明らかにするに至っていない。今後はこちらの解析にも注力し、様々な状況下での神経細胞内のマグネシウムイオン動態を明らかにしたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では、主要な神経伝達物質を添加したときの神経細胞内マグネシウムイオン動態を観察し、濃度変化を引き起こす物質を見出すことに成功した。今年度の研究においては、神経細胞が生体内で受け取る可能性のある物質の範囲内で探索範囲を広げ、神経細胞内のマグネシウムイオン濃度変化を引き起こす物質を選別する。その後、その物質がどのようなシグナルを介して、どのようにマグネシウムイオン濃度変化させるのかのメカニズムを解析していく。メカニズムの解析に当たっては、初年度に細胞内局所でのマグネシウムイオン濃度変化を可視化するプローブを論文として報告したので、その技術も用いることでより詳細な観察、検討を行うことができるものと考えている。 当初の研究計画においては、神経細胞の発火と細胞内マグネシウムイオン濃度変化の関係を明らかにすることも目的の一つとして挙げていた。しかし、神経伝達物質が引き起こすマグネシウムイオン濃度変化のメカニズムの解析を初年度に進めた関係で、神経発火との関係の検討は現在のところ進められていない。本年度は、こちらの解析も随時進めていくこととする。具体的には、分散培養した神経細胞を、TIO透明ガラス電極を用いた細胞外からの電流刺激や刺激電極を神経細胞に刺入して行う細胞内からの電流刺激により刺激し、それにより引き起こされる細胞内マグネシウムイオン濃度変化を測定する。これにより、神経細胞の発火自体が細胞内マグネシウムイオン濃度を変化させ得るのかを明らかにできると考える。さらに、変化が引き起こされるならば、そのメカニズムを阻害剤や局所での濃度変化解析を用いて明らかにする予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究の実施に当たり、主要な神経伝達物質を添加したときの神経細胞内マグネシウムイオン動態を観察することから実験を始めたが、ここで一酸化窒素およびGABAが細胞内マグネシウムイオン濃度上昇を引き起こすことを発見した。マグネシウムイオン濃度を変化させるメカニズムの解析は当初は2年度目に行う計画であったが、その計画を変更し、これらの現象のメカニズムの解析を初年度に行った。そのため、候補物質を増やして細胞内マグネシウムイオン濃度変化を引き起こす物質を探索すること、および神経発火と神経細胞内マグネシウムイオン動態の関係を明らかにすることは次年度に行うことになった。結果として、これらの実験に使用する予定であった予算が次年度に繰り越された。 神経細胞に添加して細胞内マグネシウムイオン動態を変化させるかを検討するための候補物質の範囲を広げ、実験を行う。そのための候補物質を購入する。また、神経発火と細胞内マグネシウムイオン濃度動態の関係を明らかにすることを目的として、神経細胞を強制的に発火させるために使用するITO透明ガラス電極等の電極を購入する。 神経細胞内マグネシウムイオン濃度変化を引き起こすメカニズムの解析を行うに当って、阻害剤などの購入は当初の計画どおりに行う計画である。
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