2013 Fiscal Year Research-status Report
東地中海諸国の政治・社会における縁故主義についての実証的研究
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25760002
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
高岡 豊 東京外国語大学, 外国語学部, 研究員 (10638711)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 部族 / 宗派 / 議会 / 選挙 / シリア紛争 / 国際情報交換(イギリス) |
Research Abstract |
レバノン、シリア、イラク、ヨルダンの各国の国会について、現職議員の名簿を作成し、個々の議員の民族・宗派・部族的な出自を中心に、諸資料と照合の上地縁・血縁などについての情報を整理した。本研究でさまざまな地縁・血縁集団の政治参加の実態解明を目指すシリアは、法的に宗派・民族・部族などの諸集団に国会の議席の割り当てが明示されているイラク、ヨルダンと異なり、特定の地縁・血縁集団を対象とする明示的な議席の割り当てが行われていない。また、不文律と不正確な人口推計に基づいて宗派ごとに閣僚ポストや国会での議席、公務員の役職を配分しているレバノンの体制とも異なり、何らかの不文律に基づいて役職が配分されているか否かについても明らかではない。 しかし、本年度の研究活動を通じ、シリアの国会には、同国に存在する各種の民族・宗派・部族集団がかなり網羅的に代表を輩出していることが明らかになった。すなわち、現在のシリアにおいては、中央政府には諸集団を国会に参加させることを通じて彼らを政権の支持者・同盟者として取り込み、個々の集団の側には国会への参加を契機に中央政府との関係を強化し、利益誘導の機会を確保するという、相互に利益となる関係が成立していると言える。その一方で、こうした取り込みと権益確保の関係は、シリアの「全ての」地縁・血縁集団を対象としているわけではなく、特定の部族が国会に参加する機会を失っている事例や、ウラマーと呼ばれるイスラーム学者が構築するネットワークの間では政府と提携して政治的地位を得る者の範囲が非常に限られている事例も明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、レバノンで国会議員選挙が実施され新たな議会が成立する予定だったが、選挙は延期され、実施のめどが立たなくなった。このため、25年度に計画していたレバノンへの出張は見送った。その結果、レバノンの国会の最新の状況についての情報収集・整理や、同国を拠点とした資料と情報を収集する体制の構築は当初計画より遅れることとなった。 その一方で、シリアの部族やイスラーム宗教界の国会への参加についての資料・情報の収集と照合は当初計画より順調に進み、国会議員名簿の作成が大幅に進展した。これは、シリア紛争が長期化する中、シリアの政治や社会についての研究が盛んに行われ、その成果が多数公開されたことに起因すると思われる。また、平成25年6月に英国のセントアンドリューズ大学シリア研究センターで開催された国際会議にてシリア紛争の中での部族の役割の重要性を指摘する報告を行った。同会議では、英国の研究者を中心にシリアの政治・社会における部族や宗教勢力の役割についての最新の研究状況についての情報交換を行うこともできた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、イラクで国会議員選挙が実施される予定であり、イラクで新たに選出される議会についての資料・情報の収集と照合、名簿の作成を重点的に行う。 その一方で、シリアの現地情勢は依然として改善の目処が立たない上、イラクも安全に調査・研究活動を行う状況ではない。このため、現地調査の実施や現地での資料の収集を行うためには、レバノン、ヨルダンでの活動を重視せざるを得ないが、レバノンの一部ではシリア紛争の影響を受け治安が悪化しているため、安全かつ確実な現地調査の実施が課題となる。今後当面の間、比較的治安情勢が安定し、なおかつシリア、イラクの両国との往来が盛んなヨルダンにおける情報・資料収集の拠点構築に努める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度の成果を踏まえ、引き続き資料を収集しそれに基づき名簿の作成を進める。また、研究対象地域の治安情勢を鑑み、ベイルート(レバノン)に加えアンマン(ヨルダン)でも資料・情報の収集や調査を実施する体制を構築する必要があり、現地調査を実施する必要が生じている。これに加え、成果発信のための出張やその準備のための諸費用が必要である。 26年度はイラクで国会議員選挙が予定されており、これに対応して議員名簿の整理を行うためイラクでの地縁・血縁集団などの政治参加の実態についてアラビ語資料を重点的に収集する。現地調査(1回)、および成果報告・情報交換(海外1回、国内2回程度)のための出張を行う。また、海外での報告(英語)を行うための校閲費用や、収集した資料に修復の必要がある場合は修復費用を支出する。
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Research Products
(3 results)