2013 Fiscal Year Research-status Report
翻訳研究アプローチによる言語規範としての女ことばに関する研究
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25760015
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
古川 弘子 東北学院大学, 文学部, 講師 (70634939)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 翻訳学 / 翻訳研究 / 言語規範 / ジェンダー・イデオロギー / 女ことば / 文末詞 |
Research Abstract |
本研究の目的は、女ことばという言語規範が翻訳テクストにどう表れ、日本のジェンダー・イデオロギーの構築・強化・維持のためにどのような役割を果たしたかを考察することである。言語規範として見た女ことばを、翻訳研究アプローチによって考察することは新しい試みである。また、翻訳テクストを日本社会システムの一部と捉え、翻訳テクストを通してジェンダー・イデオロギーの考察を行うことも、新しい視点である。これまで以下2点について調べるために、筆者の先行研究ではカバーしていなかった最新の翻訳テクスト(2000~)の女性登場人物の会話文に使われる文末詞について定性的・定量的分析手法を用いて分析してきた。 1. 翻訳者テクストの女性登場人物の文末詞使用 (1) 現代小説の翻訳テクストに使われる言葉と現代の日本女性の会話を比較、(2) 同じ現代小説の複数の女性登場人物の言葉づかいを検証、(3) シリーズ化された現代小説の女性登場人物の言葉づかいの変化を検証、(4) 2000年代と1990年代の翻訳テクストにおける文末詞使用の比較、(5) 映画化された現代作品の映画字幕・吹き替えの言葉づかいを検証、(6) 児童小説の翻訳テクストに使われる文末詞の検証、(7) 同じ児童小説が過去に複数回訳されている場合の言葉づかいの変化を検証 2. 翻訳者の性別が文末詞使用に与える影響 筆者の先行研究(Furukawa 2010)では男性翻訳者のほうが言語規範に縛られやすいことを示唆する研究データが得られたが、さらなる研究が求められていた。そこで、2000年以降に出版された古典作品の翻訳テクストの女性登場人物の文末詞使用を分析した。古典作品を選んだ理由は、複数の日本語訳が出版されており、翻訳者が男女ともにいるからある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「9. 研究実績の概要」に示したように、当初予定したとおりに以下2点―1. 翻訳者テクストの女性登場人物の文末詞使用、2. 翻訳者の性別が文末詞使用に与える影響―についての研究を進めることができただけではなく、研究を進める上で関心を持つようになった、児童文学における言葉づかいとその変遷についても分析を行った (「9. 研究実績の概要」に挙げた1の(6)と(7))。 これらの分析から、以下8点の結果が得られた。 1. 現代小説の翻訳では女性登場人物の「女らしさ」が文末詞使用によって強調されている、2. その女性文末詞の使用率は現実の日本女性の約2倍~3.5倍にも上る、3. 複数の登場人物の性格描写は異なっていても文末詞使用が類似しているが、社会が考える「女らしさ」から極端に逸脱している人物の場合には女性文末詞の使用が低かった、4. 2000年代と1990年代の翻訳テクストの分析結果は相似している、5. 映画字幕・吹き替えでも同様の結果が見られた、6. 児童小説の翻訳は古典作品よりも女性文末詞の使用率が高い、7. 児童小説の翻訳テクスト分析では、戦後すぐから90年代まで文末詞使用に大きな変化はない、8. 翻訳者の性別による分析では、男性翻訳者のほうが女性文末詞使用率は高い。 「1. 翻訳者テクストの女性登場人物の文末詞使用」に関する研究成果は、日本語ジェンダー学会第14回年次大会(桜美林大学)、翻訳学の国際学会‘Did anyone say Power?’: Rethinking Domination and Hegemony in Translation (Bangor University, UK)、東北学院大学英語英文学研究所定期講演会(東北学院大学)にて口頭発表され、日本通訳翻訳学会発行『通訳翻訳研究』(第13号: 1-23、査読有)にて論文発表された。
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Strategy for Future Research Activity |
翻訳テクストに現れる女ことばと日本社会におけるジェンダー・イデオロギーとの関係について研究するにあたり、登場人物のセクシャリティがその言葉づかいとどのように関わるのか、その言葉づかいには何か明示的な機能が与えられているのか考察することは必要不可欠である。そこで、小説や映画に描かれた登場人物のセクシャリティや筋書きが、翻訳者の文末詞選択に与える影響を研究していく。 さらに、集めた実証データに理論的裏付けをすることが求められる。ここでは、多元システム理論(Polysystem Theory, Even-Zohar, 1978])を基に、日本語に訳されたテクストを日本社会システムの一部、つまり、翻訳テクストは言語規範、ひいてはジェンダー・イデオロギーの表象物であるとみなして記述的翻訳研究(Descriptive Translation Studies, Toury 1995)を行っていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
Bangor University(UK)での学会参加費と宿泊費が安く済んだため、平成25年度の支出額は当初予定よりも低くなった。 平成26年度に予定しているCETRA Summer School(University of Leuven, Belgium)への参加費用に充てたい。これは本研究が依拠する多元システム理論と記述的翻訳研究に関するものである。
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