2014 Fiscal Year Research-status Report
心性論と社会倫理思想の観点による唐宋禅宗思想史の研究
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25770016
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
土屋 太祐 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (20503866)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 中国 / 仏教 / 禅 / 宋代 / 契嵩 / 輔教編 / 圜悟 / 碧巌録 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)契嵩(1007~1072)『輔教編』の構造を分析し、論文「契嵩《輔教編》中的因果報應與修證」として、国際シンポジウム(「東亜文献与中国俗文化国際学術研討会」主催:四川大学中国俗文化研究所・韓国交通大学東亜研究所)で発表した。論文は四川大学俗文化研究所の雑誌での発表が決定し、刊行準備中である。『輔教編』は仏教が国家の統治に貢献しうることを証明することで、宋初排仏論から仏教を護ることを意図している。『輔教編』には明確な教判の構造(上から菩薩乗、縁覚乗、声聞乗、天乗、人乗)があり、そのうち社会秩序の維持に貢献するのは主には下位に当たる人天乗で、そこでは「因果応報」の観念が重要な働きをする。一方、最上位の菩薩乗は「一心源」を所依とし、仏教の至高の悟りの境界を代表する。一般に契嵩は士大夫に先駆けて「性命」の学を提唱したとされるが、少なくとも契嵩自身は「性命」を儒家および諸子においても提唱されるものとし、仏教の専売特許とは考えていない。仏教の優位性は現実に悟りに至ることが可能な実践「因果修証」にあるとする。これは「無修無証」を主流とする当時の禅宗において、特徴ある主張であり、のちの無事禅批判の先駆けと言える。一方、契嵩は「性無善無悪」を主張し、仏教的な真理の本体といえる「性」と社会秩序の関係は十分に整理されていない。これはのちに儒教の主流となる道学と比較して特徴的である。 (2)研究会における会読の成果として、「『一夜碧巌』第一則訳注」(『東洋文化研究所紀要』第167冊)を発表した。圜悟克勤(1063~1135)の評唱による『碧巌録』は北宋期の禅宗を代表する文献であり、禅思想史の理解に重要な情報を提供する。今回の訳注は、『碧巌録』流布本とは異なる重要写本で、これまで詳細な訳注が作成されていないいわゆる「一夜本」を対象としている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
契嵩『輔教編』の基本的な思想構造を解明することができたが、契嵩のその他の著作との関係はまだ解明されておらず、継続的な研究が必要になる。 また、今回の内容については、当該のシンポジウム、その他の研究会での討論において、上に述べた契嵩の思想は、仏教思想としては極めて一般的であり、特徴を認めづらいという意見、また本研究の「仏教的な真理の本体といえる「性」と社会秩序の関係は十分に整理されていない」という観点に対し、これは後世の思想から振り返って為された判断ではないかという意見が提出された。これらの意見は十分に考慮する必要があるが、しかし、このような意見が提出されたのは、契嵩の思想の思想史的位置づけが十分に理解されたいないことが原因であると考える。契嵩の思想のを自り深く理解するには、前後する歴史的文脈を十分に参照し、契嵩の置かれた環境を解明することが必要である。このため、考察の範囲を広げつつ、研究を継続し、契嵩に先行する思想状況及び、その後世に対する影響もしくは後世からの評価を解明する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、考察の範囲を契嵩のその他の著作に広げることが必要であり、『鐔津文集』における『輔教編』以外の著作、また『伝法正宗論』『伝法正宗記』等の著作を十分に分析する必要がある。 また前後の思想史的文脈への配慮も同様に必要になるだろう。とくに、契嵩よりのちに士大夫から大きな支持を得た大慧宗杲の思想を、契嵩との比較から改めて考え直すことは、契嵩、大慧両者の思想の理解にとどまらず、宋代禅宗史の解明にとって大変重要な意義があるだろう。契嵩の思想は、宋代の禅宗がはじて儒教と深い思想的交渉を持った例であり、当研究においては、宋代禅思想にあたえた儒教の影響がすでに具体的な問題として現れてきている。ここから比較対象を大慧に広げることで、宋代の禅宗が宋代の全体的状況の中でいかに形成されてきたのかという問題について、一定の知見を得られるものと期待する。 また、契嵩が反駁を試みた宋代の排仏思想についてもさらなる研究が必要であるが、特にその潮流の帰結の一つである朱熹の排仏思想を考察することで、契嵩、および大慧の思想史的位置づけを解明することが可能になると考える。
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Research Products
(2 results)