2013 Fiscal Year Research-status Report
現代トルコにおけるロマの音楽伝承をめぐる実態研究――スルクレ地区を事例として
Project/Area Number |
25770039
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
濱崎 友絵 早稲田大学, オープン教育センター, 助教 (90535733)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | トルコにおけるロマと音楽 / 音楽伝承の変容 / 音楽における西洋化 |
Research Abstract |
本研究は、イスタンブルのスルクレ地区に居住するロマの音楽を取り巻く現状と教育の実相を明らかにすることを目的とする。イスタンブルのスルクレは、ロマ(ジプシー)の最古の居住地として知られる歴史地区であるが、2008年、都市再開発プロジェクトにより同地区一帯が破壊されたことで、それまでロマ・コミュニティ内部でおこなわれてきた音楽教授が実質的に不可能となった。では、今、スルクレのロマ達はどのように自分たちの音楽を次世代に受け継ごうとしているのか。この問いを検証するため、本研究は以下の三つの考察軸(1)スルクレ地区でおこなわれてきた伝統的な音楽伝承の実態、(2)同地区の破壊から音楽教室の設立に至るまでの経緯と背景、(3)新たに創設された音楽教室の制度および教育内容の実相、を設定した。 本年度はとくに上記(2)に焦点を当て、スルクレの社会的、歴史的背景を検討するため、2014年2月におよそ一週間イスタンブルに滞在し、主にアタテュルク図書館において資料調査をおこなった。スルクレ地区の音楽環境の変化は、とくに1960年代に入ってから顕著になっていったようである。同地区において音楽や踊りの場として重要な機能を果たしていた「娯楽の家」が、同時期に次々に閉鎖され、1992年に至っては当該施設が禁止されたことで、スルクレにおける公共の音楽伝承の場は事実上、消滅することになった。なお、2010年にロマ自身の手により設立された「スルクレ子供の芸術アトリエ」は、現在週2日、音楽やダンスのレッスンをロマの子供たちに提供しているが、一方で当アトリエとは別に、ファーティヒ市により「スルクレ音楽学校」が設立されることが明らかとなっている(2014年5月開校予定)。「スルクレ音楽学校」はロマに特化した音楽教育を謳っていないものの、両機関の関係性および教育内容の検討が今後必要になると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
スルクレ地区の音楽をめぐる状況についての整理に時間を要している。当該地区の取り壊しに係わる政治的、社会的な状況については、東京外国語大学が運営する「中東メディア」をはじめとし、世界のさまざまなメディアの記事等で確認することができるが、音楽に主眼を置いた論文や記事は限られており、こうした社会情勢と音楽環境の変容との相互関連を整理していくことが目下の課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度においては、上半期において、これまでの収集資料の解読をおこない、スルクレ地区の音楽をめぐる状況についての事実関係の整理をおこなう。下半期においては、同地区の破壊から音楽教室の設立に至るまでの経緯と背景の考察を進める。なお本年、開校が明らかとなったファーティヒ市「スルクレ音楽学校」は、既存の「スルクレ子供の芸術アトリエ」の在り様にも影響を与えることが予想されることから、当初の研究計画には含まれていないが、両機関の音楽教育制度および内実の比較も今後の検討課題として位置づけたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現地調査の実施時期が当初の予定(8月)から翌2月となったことで、想定より旅費の支出が押さえられたため、次年度使用額が生じることになった。 研究上必要な備品および資料購入費として次年度使用額と合算し、研究を進めてゆく。
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