2014 Fiscal Year Research-status Report
対抗宗教改革期のフィレンツェにおける中世・ルネサンス美術の再設定
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25770047
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Research Institution | Keisen University |
Principal Investigator |
伊藤 拓真 恵泉女学園大学, 人文学部, 准教授 (80610823)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | イタリア・ルネサンス / フィレンツェ美術 / 対抗宗教改革 / ジョルジョ・ヴァザーリ / ドメニコ・ギルランダイオ / 聖堂改修 / サンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂 / サンタ・クローチェ聖堂 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成25年度に作成した関連作品目録を基礎資料とし、16世紀半ばの美術史・美術批評的言説との対照を行った。主たる分析対象とするヴァザーリの『芸術家列伝』では、初版と第2版の対比を行うために、両版を収録したバロッキ版(P. Barocchi - R. Bettarini, eds, Firenze, 1966-)を底本とし、関連個所の特定を行った。その他のヴァザーリの書簡やボルギーニなどの関連人物の言説に関しても、K. Frey, Der literarische Nachlass Giorgio Vasaris, Muenchen, 1923-1940 などを参照した。 また、夏季および春季にフィレンツェにおける現地調査を行い、先行研究の収集、作品の実見などを行った。特に関連聖堂に由来する壁画作品に関する調査を重点的に行い、その結果をもとに現在論文執筆を行っている。また次年度以降の研究に備えて、同時代に行われたフィレンツェの諸聖堂の改修を比較対象として調査した。なかでも、サンティッシマ・アヌンツィアータ聖堂を重要な検討対象として、関連作品の文献調査などを行った。 サンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂主祭壇画(ドメニコ・ギルランダイオ作)に関して、昨年度に行った調査にさらなる追加的調査を行い、その内容を International conference Space in Renaissance Italy organized by Villa I Tatti (The Harvard University Center for Italian Renaissance Studies) で口頭発表を行った上で、Mitteilungen des Kunsthistorischen Institutes in Florenz 誌に論文を掲載(平成25年度報告を参照)した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献資料による調査のほか、所属大学の夏季・春季の授業休止期間を利用した実地調査を行った結果、研究はおおむね順調に進展している。基礎的資料として用いるために平成25年度に制作した作品リストにもとづき、研究対象の絞り込みを行った結果、現在は関連する壁画作品に関する調査を重点的に行っている。 サンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂主祭壇画(ドメニコ・ギルランダイオ作)に関して行った追加的調査では、ヴァザーリの『美術家列伝』の内容との照合などの作業を経て、これまで特定されていなかった複数のプレデッラ・パネルの発見や、ドメニコ・ギルランダイオ工房で助手を務めていた逸名画家プセウド・グラナッチの特定など、大きな成果を得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の最終年度である今年度は、研究の成果をより広範な美術史上の文脈に位置づけるための研究を行う。 平成26年度に既に行ったフィレンツェのサンティッシマ・アヌンツィアータ聖堂のほか、フィレンツェの諸聖堂との形式上の類似を見せるトスカーナ・ウンブリア地方の諸聖堂や、ルードスクリーンなどに関して対抗宗教改革期以前の様子を留める北イタリアの諸聖堂の事例との比較を積極的に行う。 さらに、対抗宗教改革期に行われた作品の再設定を、16世紀半ばの芸術家が過去を一方的に解釈した結果として分析するだけでなく、既存の美術作品の形式が聖堂改修に伴う新規の作品制作にも影響を与え得たという双方向的な関係として捉えるための調査を行う。一例をあげれば、フィレンツェの聖堂改修に先立って、ヴァザーリはアレッツォのピエーヴェ聖堂の改修を行った。同聖堂の主祭壇にはもともとピエトロ・ロレンツェッティの手になる多翼祭壇画が設置されていたが、改修に際してヴァザーリはこれを廃し、サンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂のギルランダイオの祭壇画に極めて近い形状をもった両面祭壇画を自身の手で制作した。ヴァザーリが『列伝』においてギルランダイオの祭壇画に高い評価を与え、かつ聖堂改修後も利用し続けたことを鑑みると、同祭壇画をモデルとしてピエーヴェ聖堂の新祭壇画が制作された可能性を指摘できる。このために、同様の事例についての調査を行う。 年度の前半には先行研究の確認を中心に行い、フィレンツェ以外の都市での関連事例を特定する。夏季に現地調査を行い、特定した事例の実見検証を行うと同時に、関連研究を収集する。また現在準備中の壁画に関する論文を完成させ、年度内に投稿を行う予定である。
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Causes of Carryover |
所属研究機関の年度末の期間における会計処理の問題によって生じたものである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
購入した物品に関する費用の一部として、既に使用済である。
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Research Products
(1 results)